勝利至上主義の果てに

20年前にNBAヘッドコーチが感じた育成の問題点

You have a decision to make…do you want to help build basketball players
or do you want to just tell everybody you won your youth league.

(ユースチームのコーチは)バスケットボール選手の育成に貢献したいのか、
それともユースリーグで優勝したことを皆に伝えたいのか、
自分の中ではっきりさせる必要があります。

Stan Van Gundy
元NBAヘッドコーチ

 

Stan Van Gundyというバスケットボールコーチをご存じでしょうか。現在は大手テレビ局TNTのNBA解説者を務めていますが、複数のNBAチームでヘッドコーチを務めた経歴をもつ名将で、2009年には5シーズンに渡り指揮を執ったオーランドマジックをNBAファイナルに導いています。この動画はおそらく2002‐03年にHCを務めたマイアミヒート時代のものと思われます。

意訳を含めた要点は以下になります。

20年前にNBAヘッドコーチが感じた育成の問題点
  1. スキル育成に大切な幼少期において、試合や勝ち負けに重点を置き過ぎている
  2. その結果、高校・大学のアメリカ人選手はパスやシュートといった基本的なスキルにおいて、国外の選手に比べて劣っている
  3. ユースチームのコートは、バスケットボール選手の育成に貢献したいのか、それともユースリーグで優勝したことを皆に伝えたいのか、自分の中ではっきりさせる必要がある

①に関しては、自分の9歳と12歳の息子が参加したYMCAのトーナメントで、18チーム中2チームのコーチしか育成を意識しているように思えなかった、というエピソードを含め、かなり強い口調で問題提起をしています。

②に関しては、このスピーチが行われたと考えられる2002年は18名、2003年は23名のアメリカ国外選手が60人という狭き門のドラフトで選ばれています。1999年は10名だったことを考えると、大きな増加傾向にある時期でした。これに関し、パスやシュートといった基本的なスキルを習得している選手が国内にいないため国外に探しにいかなければならない、と話しています。

③は説明不要、言葉のままです。ユースチームのコーチは自分自身に、そしてチームに子どもを預ける保護者はそのチームの指導者が前者なのか後者なのかを、問いかけ、見極めることが大切だと思います。

「試合に出れない子ども」がいること自体おかしいんだよ by三浦優希さん(アイスホッケー日本代表)アスリートにこそ、ユーススポーツが抱える問題に声を上げてほしいと常々思っています。今回紹介する、アイスホッケー日本代表の三浦優希さんの上記タイトルでの投稿は、一人でも多くの親・保護者、そして子供たちに読んで欲しい文章です。↓に要点を書きますが、是非下記リンクから彼のnoteを読んでください。...

Stan Van Gundy氏は、健全な育成のためや、傷害予防のために、ではなく、究極的に勝利を求められるNBAコーチとして純粋な競技力の観点から、勝利至上主義のユーススポーツに苦言を呈しています。↓の記事を含め様々な角度からこの問題を認識していただければと思います。

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