感情のタンク

できるだけ遠くまで車で行こうとした時に、残り少ないガソリンで出発する人はいないでしょう。今回は、名著 the Double Goal Coach(ダブル・ゴール・コーチングの持つパワー)に記された「感情のタンク」というコンセプトを中心に紹介します。僕自身も小学生の息子たちとのコミュニケーションの際を中心に意識しています。

Only if the emotional tank is full,
can a child be expected to be at his best or to do his best.
感情のタンクが満たされていて初めて、
子どもはベストを尽くすことができるのです。

Dr. Ross Campbell

Truthful &Specific

感情のタンクを満たす言葉がけのポイントとして

  • Truthful:嘘偽りのものでない
  • Specific:内容が具体的である

の2点が挙げられています。そのためには声をかける側(親・保護者・コーチ・チームメイトなど)の注意深い観察が大切になることは言うまでもないでしょう。いわゆる「褒めごろし」や、適当な「よくやった」は感情のタンクを満たさないとされています。むしろ、子ども達は偽の誉め言葉を一瞬で見抜くといいます。また、タンクを満たす意図と注意深い観察はあっても、伝える際の表現が雑になっていては目的は達成されません。僕もコミュニケーションの際に意識するようにしています。

逆に、感情のタンクを空っぽにしてしまうものとして、批判・皮肉・無視・ネガティブな表情などの振る舞いが、具体的な例と共に挙げられています。

また、”我々はだれしも、タンクを満たす方法を時折思い出させてもらわないといけませんが、その一方で、気が付いたらタンクを空にしてしまっている、という人がほとんどです。”という表記はとても重要だと感じました。

そこで、日常的にタンクを満たす(満たす方法を思い出す)ための、バディシステム、2分間ドリル、「今日の選手」制度など、具体的に練習や活動に取り入れられる事例が紹介されています。

魔法の比率5対1

成長をガイドするためには、修正点を指摘することも必要でしょう。とはいえ、人間だれしも指摘をされると自己防衛的になってしまう側面があり、それが繰り返されると、いくら表現や態度がタンクを空にさせるようなものでなくても、結果としてタンクの中身が減っていくことは容易に想像がつきます。本著では、タンクを満たすものと批判の割合を5対1を最適比率(魔法の比率)としています2対1より低い環境では、子ども達が落胆し、諦めてしまう傾向があるとの記述があることも添えておきます。

序文を寄稿しているNBAの名将フィルジャクソンのブルズ3連覇時代におけるエピソードも、興味深いものがありました。プロスポーツのような卓越を求められる特殊な環境において、この魔法の比率は、、、と感じた人は読んでみてください。

敬意の基本「ROOTS」

Rootsとは「根源」を意味する単語ですが、スポーツにおける敬意の対象の頭文字を集めた形として紹介されています。

  • Rules(ルール:規定だけでなく、ルールが存在する理由を尊重する)
  • Opponents(競争相手:激しく・かつ友好的にプレーする)
  • Officials(審判:どんな事情があれ審判への無礼な振る舞いの言い訳にはならない)
  • Teammates(チームメイト:チームメイトを含む周囲が誇らしく思う振る舞いをする)
  • Self(自分自身:自身への敬意は、上記全ての基本となるもの。環境や対戦相手に左右されない自分自身の基準を持つ)
スポーツを通して子どものアサーティブネスを育むコロナウイルス感染拡大による活動自粛が緩和・解除されて部活動やスポーツ活動が再開されています。待ちに待った子ども達の笑顔に溢れていれば良いのですが、残念なことに、各団体や専門家が発表している安全な競技復帰のための運動ボリュームや強度調整のガイドラインを考慮しない指導者によって、ユースアスリートの怪我が急増している現状が耳に入ってきます。無知な大人の傲慢さが何よりの問題ですが、指導者とユースアスリート間のコミュニケーション文化にも問題の根を感じます。今回のコラムでは、最も健全なコミュニケーションスタイルとも言われるアサーティブネスを紹介したいと思います。私自身が、父親としても心掛けている事でもあります。...
子どものアサ―ティビネスを育むには「自分の子どもが攻撃的すぎる、または受け身すぎる」 そんな悩みを持っている親・保護者向けの記事です。 攻撃的でもなく、受け身でもない、自他を尊重する”アサ―ティビネス”という概念。 主張社会のアメリカではとても重要視されています。その育み方を紹介します。...

”ROOTS”を支える「Self:自分自身への敬意」を養うためにも、子ども達の感情のタンクを満たし続けてあげたいものです。その上で、子ども達・選手がこのROOTSコンセプトを内在化し、またチームの文化として定着するように、繰り返し伝え続ける価値があると思います。ちなみに僕が現在仕事をさせていただいているプロバスケットボールチーム長崎ヴェルカではチームコンセプトであるHard, Aggressive, Speedy, Innovative, Togetherの頭文字を集めた”HAS IT”を機会がある毎に目・耳にします。その甲斐もあって、組織においてかなりの浸透率だと感じています。

副産物としての勝利

ユーススポーツにおいて、点差で表される勝利を「副産物」としてとらえ、子どもの成長・熟達を重視することがいかに大切かを改めて考える機会になりました。スポーツを楽しむ2人の息子の親としても、です。タイトルからして、コーチ向けの本の印象があるかもしれませんが各章に「Just For Parents(親・保護者のために)」のセクションが設けられているように、役割・立場に関係なく、子どもと関わる全ての人に勧めたい一冊です。

「満たされた感情のタンクは携帯型ホームコートアドバンテージ」このとても印象に残った表現で、今回のブログを締めようと思います。