LTAD

10年間でユーススポーツ参加者が大きく増加したスポーツーADMとは

子供達のスポーツ離れが危惧されている中、この10年間で18歳以下のユース参加者が13%の増加を記録しているスポーツがあります。アイキャッチ画像でお分かりだと思いますが、アイスホッケーです。この10年間で何があったのでしょうか。

13%増加の内容

本題に入る前に、この13%の内容をみてみましょう。特筆すべき点として以下の4点が挙げられます。

  • 8歳以下の参加者の増加が最も顕著で33%増
  • 女の子の増加も著しく18歳以下全体で37%増
  • 過去5年連続でユース参加者の過去最多記録を更新中
  • 過去3年連続で8歳以下の参加者の過去最多記録を更新中

下の図は去年(2018年)に作られたものですが、上記のようにポジティブなトレンドは今年も続いています。

(図:https://www.usahockey.com/news_article/show/966542より)

10年前に導入されたADM

今から10年前の2009年、全米ホッケー協会はユースアスリート育成の新しい仕組みとして”the American Development Model(ADM)”を承認しました。この決断が、アメリカにおけるユースホッケーの環境を劇的に改善したといいます。ADMはスポーツ種目の枠を超えて認知されるようになり、今では地方のユーススポーツクラブから全米オリンピック協会に至るまで採用されています。

ADMとは

ADMのホームページでは、このモデルを「個人個人がそれぞれのポテンシャルを認知し、スポーツを健康で活動的なライフスタイルの為の道として使えるようになる事を目指した、アスリートを中心とする、コーチによる充足と運営によるサポートからなる枠組み(An athlete-centered, coach-enhanced, administrator-supported framework)」と定義しています。本文中には、ADMはエリートパフォーマンスを追及するためだけのモデルはないことが強調されており、スポーツ科学・コーチング学・発達学に基づく子供の成長過程に適した方法で上記の目的を実現する為に10つの原則8つのステージを設定しています。

ADMの10原則

  1. Excellence Takes Time (時間をかけての卓越)
    それぞれの年齢に適した方法で段階的に、ホッケーの全側面での成長を目指す
  2. Physical Literacy and Fundamentals (体の賢さと基本)
    楽しさを強調した多様な活動を通して基本的な動作とスポーツ技術を習得する
  3. Building Athleticism (運動能力の構築)
    幼少期から成長期の全過程を通して、多様なトレーニング方法で健康とフィットネスを向上して怪我のリスクを低減する
  4. Specialization and Early Sampling (専門化と早い段階での多様なスポーツ経験)
    幼少期に多様なスポーツや活動を経験し、14-16歳で自分が決めたスポーツの専門的なトレーンングを開始する
  5. Growth and Individualization (成長と個別化)
    人間の一般的な成長と成熟のモデルを理解した上で、個人差を理解、感謝し、対応をする
  6. Periodization (ピリオダイゼーション:期分け)
    適切な休養と回復の為のオフシーズンを含む、週・シーズン・年間のプランを採用する
  7. Mental, Cognitive and Emotional Development (精神・認知・情緒の成長)
    身体とは違って目に見えにくい精神・認知・情緒面での成長に着目する
  8. Quality Coaching (質の高いコーチング)
    ユースの自信、能力、人間性、他との繋がりを上達させる、対人間と個人内に関する統合された知識をブレずに応用できるコーチによる指導
  9. System Alignment and Integration (システムの統一・統合性)
    ホッケー協会内に留まらないADMモデルの普及
  10. Continuous Improvement (継続した改善)
    コーチや運営者をはじめとするスポーツに関わる全ての人が継続的な改善のために新しい発見や革新を求め続ける

ADMの8ステージ

ADMで一番関心させられたのが、この部分です。上の10原則に基づいた、トレーニングボリュームやメニューなども含む具体的な指導要項が、それぞれのステージごとに数ページに及ぶ別ファイルで用意されています(いずれ要約に挑戦したいと思います)。

  1. Active Start StageーFUNdamental Movement Skills, 6U
    活動的なスタートステージ 楽しく基本的な動作を学ぶ(6歳以下)
  2. FUNdamental StageーDeveloping ABCs, 6U & 8U
    楽しい基本ステージ ABC(基礎)の発達(6歳または8歳以下)
  3. Learn to Train StageーLearning Fundamental Sport Skills, 10U & 12U
    トレーニングを学ぶステージ 基本的なスポーツスキルを学ぶ(10歳または12歳以下)
  4. Train to Train Stage, 14U & 16U
    トレーニングの為のトレーニングをするステージ(14歳または16歳以下)
  5. Learn to Compete Stage, 18U & NTDP
    競争を学ぶステージ(18歳以下とナショナルチーム育成プログラム)
  6. Train to Compete Stage, 20U Juniors and NCAA
    競争の為のトレーニングをするステージ(20歳以下と大学競技者)
  7. Train to Win Stage, International
    勝つためのトレーニングをするステージ(国際大会競技者)
  8. Hockey for Life
    生涯を通してホッケーを

この8ステージをみて、LTADモデルを思い出した人もいらっしゃると思います。それもそのはず、ADMはLTADモデルを元に作られているからです。LTADが最終ゴールをActive for Lifeと設定しているように、ADMもHockey for Lifeが最終ゴールです。

ADMをサポートする声

With cross-ice hockey and small-area games, there’s way more action, way more fun, and it creates more offense. I know it was a lot more fun for me growing up with small-ice hockey. (中略)The game’s all about skill, creativity and competition. Playing in smaller spaces helps develop all of that, plus it’s fun, which is one of the things I like most about the ADM.

小さなスペースでのクロスホッケーは、より多くのアクションがあって、より楽しく、より多くのオフェンスを生み出す。小さなスペースでホッケーをしながら育つのはとても楽しかった。ホッケーは技術、創造性、競争心の3つが全て。小さなスペースでホッケーを学ぶ事は、その全てを養う事ができ、そして楽しい。これがADMの好きな所の一つさ。

AUSTON MATTHEWS
NHLトロント・メープルリーフ フォワード
2017年新人王
アメリカ代表として金メダル2回受賞

ADMでは通常の1/3の長さのスペースで8人制のCross Hockeyを推奨しています。Project PlayのThink Smallでは、限られたスペースを有効利用する事が説かれていますが、ADMでは技術面の成長や楽しさを追及してのアイデアです。

The American Development Model has made a huge impact on our young athletes, and by staying committed to the ADM, we’ll continue giving them the overall skill development they need.

ADMは多大なインパクトをユースアスリートに与えてくれた。ADMにコミットし続ける事で、子供達に必要な総合的なスキルの発達を提供する事ができる。

PHIL HOUSLEY
NHL バッファローセイバーズ ヘッドコーチ
アメリカジュニアナショナルチームヘッドコーチとして2013年金メダル受賞
NHL史上最も得点を記録したディフェンスマン

 

The more we prioritize learning over winning in youth hockey, the better we get at developing talent and the more likely we are to win.

ユースホッケーにおいて、学ぶことを勝利よりも優先すればするほど、才能を伸ばす事ができ、(結果として)より勝つようになる

JEFF BLASHILL
デトロイトレッドウィングス ヘッドコーチ
2017年2018年 アメリカ代表ヘッドコーチ

 

The ADM is the best program for EVERY SINGLE KID playing the sport, regardless of ability level. Coupled with USA Hockey’s extraordinary COACHING EDUCATION programs, the sport at the grassroots level has NEVER BEEN BETTER in our country.

ADMはその能力を問わずスポーツをする全ての子供にとって最高のプログラムだ。USAホッケーの素晴らしいコーチ教育と相まって、アメリカにおける草の根のホッケーレベルは過去最高のものとなっている。

DAN BYLSMA
2018年 アメリカ代表アシスタントコーチ
2015年  IIHF男子アメリカ代表アシスタントコーチとして銅メダル受賞
2014年 アメリカ代表ヘッドコーチ
2009年 スタンリーカップ勝者

ADMのHPには、まだまだ数多くの様々なポジションで異なるバックグラウンドを持つ人達からのADMをサポートするコメントが紹介されています。

最後に

今では幅広く認知・採用されるようになったADMですが、10年前に導入された時は懐疑的な声が強かったとの事です。ADMが根付いた大きな理由は、アメリカのホッケーの大元であるUSAホッケーがその採用を承認したからでしょう。LTADへの理解を持つ日本〇〇協会があらわれ、そのスポーツ文化に適したモデルを構築・実施する事で大きなうねりを生む事ができると思います。「〇〇」にはどのスポーツが入り得るでしょうか。

(原文・参考資料:https://www.usahockey.com/news_article/show/986127
https://www.admkids.com/page/show/910488-what-is-the-american-development-model-)

セミナー情報

このようなトピックに関心がある方は、3月7日に開催するオンラインセミナー「健全なユーススポーツ環境を考える」への参加を是非ご検討ください。