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ニュージーランドにおけるユーススポーツ大変革の動き

(トップ画:www.sportnz.org.nzより)

Monster Moment in NZ Sports
ニュージーランドのスポーツにおける「モンスター(とんでもなく大きい)」な瞬間だ

Peter Miskimmin
Sport NZ CEO
2020年2月25日

Sport NZとは

スポーツを通して国民の生活を豊かにし国を鼓舞する事を目的に掲げた、ニュージーランドのスポーツを統括する団体。その手段として以下の3点を挙げています。

  1. より多くの若い人達がスポーツとレクリエーションに参加すること
  2. より多くの大人がスポーツとレクリエーションに参加すること
  3. 国際大会で、より多くの勝者を輩出すること

HPには、これらの目標を達成する為のプロジェクトやコーチ、親・保護者向けの充実した情報が掲載されています。

日本における日本スポーツ協会が近い存在だと思います。

2月25日が”モンスター”な瞬間である理由

そのSport NZが”Keep up with the play“というキャンペーンを開始した日です。このキャンペーンはSport NZ単独での展開ではなく、同国のスポーツを支える5つのメジャースポーツ団体(ラグビー、クリケット、フットボール、ネットボール、ホッケー)によってサポートされています(日本でいえば、相撲協会、プロ野球、Jリーグ、Vリーグ、Bリーグ/Wリーグが協力しているイメージでしょうか)。

2019年9月、上記の5団体はLess competitive(競争性を減らし)、More inclusive*(より包括的で)More fun(もっと楽しく)というテーマのもと、以下6つの決意が記されたStatement of intent(主旨書)に同意・署名をしています。*Inclusiveは「包括的」と訳しましたが、対義語のExclusive「排他的な」の逆をイメージすると良いかと思います。

  1. 競技レベルに関係なく、すべての子供達が質の高い経験が出来る事の保証
  2. ユーススポーツに関わるリーダー、コーチ、運営者、親・保護者の態度と行動の変化をリード
  3. 競技構造と育成機会の変化をサポートするリーダーシップの提供
  4. 国・地区代表トーナメントの在り方を見直してより多くの子供達にスキル発育の機会を保障する事を含む、10代を通して才能発掘を行いつつも視野を広く保つためのスポーツ団体・学校との共同作業
  5. 子供達の複数スポーツへの取り組みサポート
  6. オーバートレーニングとオーバーローディングに関するリスク認識の向上

同書は以下の文章で締められており、その下にはSport NZ、NZクリケット、NZフットボール、NZホッケー、NZネットボール、NZラグビーの代表者のサインが入っています。決意がひしひしと伝わってきます(引用下部のリンクから見ることができるので、是非)。

To maximise success, we are committed to working collaboratively with like-minded sports, schools, iwi and other organisations to encourage the widest possible change.
最大限の成功を納めるべく、可能な限り幅広い変化を推し進めることができる同じ志を持ったスポーツ・学校・人々・団体と協力して全力で取り組みます。

Let’s ensure our young people develop a life-long love of sport and
physical activity. Through commitment and teamwork, we can make a change.
私たちの子供達に、生涯を通じたスポーツへの愛と運動を確かなものにしましょう。
献身とチームワークによって、変化を起こせます。

IT’S TIME TO CHANGE OUR APPROACH TO YOUTH SPORT
LET’S KEEP UP WITH THE PLAY. LET’S KEEP YOUNG PEOPLE IN SPORT.
ユーススポーツへのアプローチを変える時は今。子供達にスポーツを。

Sport NZ State of Intentより

Keep up with the playキャンペーンはこの動きを正式に全国規模で押し出していくためのものと考えられます。

ラグビーユース選別チームの廃止が生み出した流れ

2020年のKeep up with the playキャンペーンや、その半年前の2019年9月のStatement of intentへの署名は何の前触れもなく始まったわけではありません。

同国のユーススポーツに大きな一石が投じられたのは、さらに遡る事約半年の2019年2月末、NZラグビーチームNorth Harbourによるユース世代の選別チーム廃止発表によってでした。賛否両論がある中、NZクリケットが団体として賛同の意を示し、そこから他のスポーツ団体が続き、わずか半年の間にStatement of intentへの署名へと繋がりました。このスピードの背景には、力強いリーダーシップの存在に加え、潜在的な問題意識の高まりがあった事が考えられます。このHPも、微力でもそのような役割を果たせたらと思っています。

プラットフォーム「BALANCE IS BETTER」

NZユーススポーツ史上最大の動きのプラットフォームとなるのが、BALANCE IS BETTER(バランスが取れている方が良い)です。アメリカのProject Playと同様に、親・保護者向け、コーチ向け、運営者向けの充実した情報がまとめられており、Keep up with the playプロジェクトのニュースなども更新されています。

前エントリーで紹介した、以下の問題点にもしっかり言及しています。

  • Is it too many practices a week?
    (練習のしすぎ)
  • Is it being written off too early?
    (早すぎるラベル付け)
  • Is it specializing in one sport too soon?
    (早すぎる競技特化)
  • Is it believing you have to be in the top team?
    (トップチームに入らなければという観念)
  • Is it being expected to play like professionals?
    (プロのようにプレーしろという期待)

今後、和訳・紹介をしていこうと思います。

懸念の声と、それに対する答え

競争性を減らし、楽しさを強調するこの動きに対し、「スポーツをソフトにしてしまう」「勝利の価値を無くしてしまう」という懸念の声が上がっていると、Sport NZのインタビューでも言及されています。それに対し、NZネットボール理事Jennie Wylieは「勝利への強調を無くすのではなく、年齢に相応に緩める」と答えています。国際大会で勝利を納める事もSport NZが掲げる目標を達成する為の手段の一つであり、そこにブレはありません。むしろ、それを達成するためにも、より健全なユーススポーツ環境が必要と考えられています。

Youth sport is changing. The thinking is changing.
(ユーススポーツは変わってきている。考え方も変わってきている)

同キャンペーンのキャッチフレーズの一つですが、まさにその通りだと思います。数年後のNZユーススポーツ環境がどうなっているか、注目です。

セミナー情報

4月4日に、ZOOMを使った以下のオンラインセミナーを開催します。興味・関心のある方は、こちらから詳細を確認してください。