「自分の子どもが攻撃的すぎる、または受け身すぎる」
そんな悩みを持っている親・保護者向けの記事です。
攻撃的でもなく、受け身でもない、自他を尊重する”アサ―ティビネス”という概念。
主張社会のアメリカではとても重要視されています。その育み方を紹介します。
記事の信頼性
筆者の中山佑介(@yusuke_0323)は自身も2児の父親であり、米国で運動学の博士号を修めたのち、アスレティックトレーナ―としてNBAを含む日米のプロスポーツチーム・アスリートと関わってきました。研究報告に基づいた情報発信を心がけています。
まず、アサ―ティビネスとは何なのかを明確にします。その後は、ユーススポーツ環境を想定したFamily Coach(家族コーチ)と心理療法士からのアドバイスを紹介します。
日々の子育てに、アサ―ティビネスを意識した健全なコミュニケーションが生まれるきっかけになればと思います。子育ては試行錯誤の繰り返しですが、その中の一つの基準となるでしょう。
アサ―ティビネスとは
トップ画にのように、「相手を尊重すること」と「自分を尊重すること」を統合した、攻撃的(アグレッシブ)でも受け身(パッシブ)でもない、最も健全なコミュニケーションです。
例:アグレッシブ・パッシブ・アサーティブの違い
遊んでいた玩具を取られてしまった子ども(A)と、思うようなプレータイムがもらえず悩んでいるユースアスリート(B)を例で考えると、このようになります。
アグレッシブ
(A)「返せよ!殴るぞ!」
(B)コーチやチームメイトに悪態をつく
パッシブ
(A)「いらないから持ってっていいよ」
(B)コーチの見えないところでチームメイトに文句を言う
アサーティブ
(A)「今僕がその玩具で遊んでいるんだよ。終わったら渡すから返して」
(B)コーチに悩みを伝え、プレータイムを伸ばすためのアドバイスを求める
アサ―ティビネスのイメージがついたところで、USA Football内の記事「Raising assertive youth athlete (アサーティブなユースアスリートを育てる)」を紹介します(直訳が難しいので意訳です)。筆者はAcademy of Coaching Parents Internationalの認定コーチであり、多くの書籍を出版しているJanis Meredith氏。
アサーティブなユースアスリートを育てる
Let your child take the lead at times
時には子どもにリードさせてあげる
どのスポーツをしたいのかを選ばせたり、自分からコーチに疑問や質問を投げかけに行くことをサポートしてあげましょう。
Help your child move out of his comfort zone
子どもが自身のコンフォートゾーンから出る手助けをする
新しいスポーツを試してみたり、知り合いのいないチームや環境に飛び込ませてみたり、リーダー役を買って出てみる事を励ましてみましょう。
Teach your child to speak up when he wants something
欲しいものがある時は声にする事を教える
プレータイムやポジションに関してなど、自分の考えや意見がある時はコーチや親に自分からコミュニケーションをとる事を薦めましょう。
Allow children to change their minds
心変わりを許容してあげる
約束を守ることが信用・信頼にとって大切である事を教えながらも、子どもの心変わりに許容的でありましょう。
Encourage children to use “I” statements
”僕は・わたしは”という話し方を推奨する
自分の気持ちに責任を持たせるためにも、「僕は・わたしは」という話し方は大切です。「コーチが、チームメイトが」ではなく、自分が何を感じたのか、思ったのかを表現することを薦めましょう。
Teach your child respective assertiveness
各々のアサ―ティビネスを教える
アサ―ティビネスにも個人差はあること、異なる意見に対して感情的に反応しないことを教えましょう。意見そのものには正しい・間違っているはありません。
Discipline behavior, not personality
子どもの性格ではなく、行為・行動を戒める
子どもを戒める必要がある時は、その理由となる行為・行動について言及しましょう。子どもの性格や人柄に言及することは、自尊心の低下につながり、アサ―ティビネスにも影響を与えます。
Be a democratic household and let everyone have an opinion
一人ひとりの意見を尊重する”民主的な”家庭であること
子どもの意見や提案を尊重して取り入れましょう。すべてに賛成する必要はありませんが、きちんと耳を傾けていることを示しましょう。自分の意見が尊重されている事を知る経験を積む事によって、声にする習慣が身に付きます。
Encourage boundaries
境界線を尊重する
アサ―ティビネスを身につける上で、自分と他人の境界線を理解することが大切です。他の人の部屋に入る前にノックすること、ボールを使う前に断りを入れることなど。
次に、心理療法士Katie Hurley氏からの10のアドバイスです。
心理療法士がアドバイスする8つ権利
心理療法士のKatie Hurley氏は、アサ―ティビネスを育むために”I have the right to~ (私には~の権利がある) ”から始まる8つの権利を子どもに伝えることをアドバイスをしています。
- Say “No”
Noと言う(権利) - Be treated with respect
敬意を持って接される(権利) - Express my needs, feelings, thoughts, and ideas
自分の必要としている事、気持ち、考え、アイデアを表現する(権利) - Be proud of my accomplishments
自分が達成したことを誇りに思う(権利) - Disagree in a respectful manner
敬意を持って同意しない(権利) - Feel and express anger
怒りを感じ、表す(権利) - Get help when I need it
必要な時、助けを得る(権利) - Feel supported
サポートされていると感じる(権利)
子どもだけでなく、大人にとっても大事にしたい・するべき権利だと気付いたと思います。子どもと一緒に自身のアサ―ティビネスも育んでいきましょう。筆者も心掛けています。
アサ―ティビネスと子どもの自尊心
自尊心は英語でSelf Esteem(SE)といいます。SEが高い人は、自分を基本的に良い人間、有能であり、愛され、慈しみに値すると信じると考え、逆に低い人は自分自身を役に立たない、能力に欠けた、他者からの愛や経緯に値しないと見なす傾向があります(Shrivastava&Mishra, 2015)。
SEを高めるためにもアサ―ティビネスやアサーティブなコミュニケーション能力を身につける事は大切だと考えられています。1970・80年代から多くの研究で、アサ―ティビネストレーニングが人間関係に対する自信、SE、自己コントロールを向上させ、不安や怖れを軽減させると報告されており(Lefevre&West, 1981など)、SEと自尊心の正の相関(一方が上がれば、もう一方も上がる)は近年の研究でも確認されています(Karagözoğlu et al.,2008など) 。
日本にもアサーティブトレーニングを提供する団体などはありますが、まずは当記事で紹介したアドバイスを今日から実践してみてはいかがでしょうか。
子どもの成長を忍耐強く見守りましょう
アサ―ティビネスの習得に限らず、子どもの成長はTwo steps forward, one step back(2歩進んで1歩下がる)の繰り返しです。「前は出来ていたのに!」と思うこともあるかもしれませんが、それが普通の成長パターンです。忍耐強く見守りましょう。