医療、ヘルスケア、スポーツに関わる専門家が学び・つながり・活躍するためのプラットフォームXPERT(https://xpert.link/)にて毎月掲載させていただいているコラムの転載記事です。
前回のコラムでは、アメリカの3団体(米国小児科学会、NATA、NSCA)のLTADに対する共通した姿勢を紹介しました。LTADのコンセプトを中心にしたユーススポーツ環境改善の動きがアメリカで生まれている事を感じていただけたと思います。
同様の観点から、この1年間で大々的に動いた国を今回のコラムで紹介します。その国とはNZ、ニュージーランドです。
Sports NZ
ニュージーランドのスポーツを統括する団体が、Sport New Zealandです。彼らはスポーツを通して国民の生活を豊かにし、国を鼓舞する事を目的とし、以下の3つを活動理念に掲げています。
1.より多くの若い人達がスポーツとレクリエーションに参加すること
2.より多くの大人がスポーツとレクリエーションに参加すること
3.国際大会で、より多くの勝者を輩出すること
この中でも3つ目を覚えておいてください。本コラムの最後に言及します。
Keep up with the playキャンペーン
Sport New Zealandの代表が“モンスター(とんでもなく大きい)」な瞬間だ”とコメントしたのが、つい2か月前の2020年2月25日です。その理由は、Keep up with the playというキャンペーンです。
子どものスポーツ離れを防ぐために始まった同キャンペーンは、以下のメッセージと共に始まりました。
“We are losing kids from sport. But you can change that. Keep up with the play. Youth sport is changing. The thinking is changing. (スポーツから子どもたちを失っている。しかし、変える事ができる。ユーススポーツは変わってきている。考え方も変わってきている。)”
なぜ“モンスター”な瞬間だったのか
Keep up with the playが持つ大きな意味は、Sport New Zealandだけでなく、同国のスポーツを支える5つのメジャースポーツ団体(ラグビー、クリケット、フットボール、ネットボール、ホッケー)が賛同・協力していることにあります。
日本の各スポーツ団体を想像してみてください。1団体ではなく、国を挙げてと表現しても差し支えない規模でのユーススポーツ環境改善を目指したキャンペーンです。“モンスター”は決して誇張表現ではありません。
Keep up with the playの前触れ
このキャンペーンには、布石ともいえる前触れがありました。キャンペーン開始の半年前2019年9月、上記の6団体はユーススポーツ環境改善のための主旨書(Statement of Intent)に同意・署名をしています。
同書には、Less competitive(競争性を減らし)、More inclusive*(より包括的で)More fun(もっと楽しく)というテーマのもと、以下6つの決意が記されています。
そしてこの主旨書は、以下の文で締めくくられています。
“最大限の成功を納めるべく、可能な限り幅広い変化を推し進めることができる同じ志を持ったスポーツ・学校・人々・団体と協力して全力で取り組みます。私たちの子供達に、生涯を通じたスポーツへの愛と運動を確かなものにしましょう。献身とチームワークによって、変化を起こせます。“
この動きを全国規模で押し出すキャンペーンがKeep up with the playです。
BALANCE IS BETTERプラットフォーム
Keep up with the playのプラットフォームとなるのが、BALANCE IS BETTER(バランスが取れている方が良い)です。
アメリカのProject Playと同様に、親・保護者向け、コーチ向け、運営者向けの充実した情報がまとめられています。
コロナウイルスの感染拡大は、Keep up with the playにとって出鼻をくじかれた形になったとも言えます。しかし、この状況下でも”ニュージーランド人として、私たちは史上最大の試合に臨もうとしている。チームとしてプレーする能力が鍵となる。”という力強いメッセージを送り、大会が中止になってしまって落ち込んでいる子どもをもつ親に向けたアドバイスや、この時期を成長に繋げようとするコーチ向けのリソースなど、積極的に情報を発信しています。
BALANCE IS BETTERが示す5つの問題点
以前のコラム「アメリカでの子供の肥満問題に対する取り組みとは(Project Playの紹介)」で紹介したProject Playが設定する8つの障壁と同様に、BALANCE IS BETTERも以下の5つを問題点として明記しています。また、問題意識を啓蒙すべくそれぞれの点に関する動画も作成しています。
1.Is it too many practices a week? (練習のしすぎ)
2.Is it being written off too early? (早すぎるラベル付け)
3.Is it specializing in one sport too soon? (早すぎる競技特化)
4.Is it believing you have to be in the top team? (トップチームに入らなければという観念)
5.Is it being expected to play like professionals? (プロのようにプレーしろという期待)
国としての競技力向上にブレはなし
Statement of Intentへの同意・サインや、Keep up with the playキャンペーンに対しては、「スポーツをソフトにしてしまう」「勝利の価値を無くしてしまう」という懸念の声が上がりました。
しかし、冒頭で覚えておいてくださいとお伝えした、Sport New Zealandが掲げる3つ目の理念「国際大会で、より多くの勝者を輩出すること」という点にブレが無い事を、同キャンペーンの責任者たちは強調しています。そのためにも、子どもがスポーツから離れていっている現状を変える必要があると判断したということです。
“Youth sport is changing. The thinking is changing. (ユーススポーツは変わってきている。考え方も変わってきている。)”
前出の、同キャンペーンのキャッチフレーズの一つです。まさにその通りだと思います。数年後のNZユーススポーツ環境がどうなっているか、注目です。