XPERTコラム

COVID-19がアメリカユーススポーツに与えた影響

医療、ヘルスケア、スポーツに関わる専門家が学び・つながり・活躍するためのプラットフォームXPERT(https://xpert.link/)にて毎月掲載させていただいているコラムの転載記事です。

https://xpert.link/column/203/

大幅なスポーツ参加時間減少とそれに伴う不安増加

アメリカのユーススポーツ環境改善のために活動を続けるProject Playによる調査では、パンデミック中に子どもがスポーツに費やす時間はパンデミック前から48%減の7時間/週になったと報告をしています。

3,000人以上を対象としたウィスコンシン大学の研究報告(2020年5月)によると、65%の思春期アスリートが不安による症状を抱えており、スポーツを中心とする身体活動の減少との関係が強いと考えられています。

スポーツプログラムの活動自粛によって撒かれた、マルチスポーツ文化復活の種

Aspen InstituteとUtah State Universityによる調査では、COVID-19前後で以下のように参加スポーツの変化がみられました。

団体スポーツから身体接触の少ない個人スポーツへの変動が参加時間の減少と共に顕著に表れています。同調査において、約半数の保護者はパンデミック中に子ども達が新しいスポーツを始め(その半数以上は2種類以上)、6割の保護者は感染拡大が収束して以前のスポーツ環境が戻った後もその新しいスポーツを続けるだろうと回答しています。

半ば強制的ではありますが、複数のスポーツに触れる機会が作られ、人々はその楽しさ・魅力に気が付いたといえます。

ユーススポーツ参加における経済的負担

促進された勝利至上主義・スポーツの早期特化の文化の元、Traveling teamと呼ばれる遠征を含むプログラムが150億円と言われるユーススポーツ産業の顔となって久しくなります。このようなプログラムに参加するためにかかるコストは、野球を例とすると平均で$3,700/年(約40万円/年)という報告があります。

さらに、特別なトレーニングを希望する家族の出費は$8,000(約80万円)にも上るそうです。高沸する参加コストと、安価な地域スポーツの衰退は大きな問題点として考えられており、Project Playはユーススポーツ環境改善の為に乗り越えるべき障害の一つとして設定、戦略を立てて活動しています。

COVID-19により広がるユーススポーツ参加における経済格差

6月に行われたProject Playによる2,603人の保護者を対象にした調査では、年収100,000ドル以上の家庭の子供は、同50,000ドル以下の家庭の子供に比べてパンデミック中にスポーツ活動に費やす時間が2.5時間長く、これはパンデミック前の40分から大きく広がっています。

16%の回答者が、子どもがスポーツ活動を中止した理由として経済状況を上げており、これは健康上の心配(48%)、他の事への関心増加(23%)に次ぐ3番目の多さとなっています。

また、パンデミック中に需要が増えたオンライン上でのトレーングは、時間にして16%の増加が報告されていますが、50,000ドル以下の家庭の子供においては微々たる増加に留まっています。同調査における回答者の12%が無職で、うち63%がCOVID-19によって職を失っており、経済格差によるスポーツ参加のギャップ拡大が危惧されています。

浮彫りになった負担の認識と、今後起こり得るシフト

パンデミック中のユーススポーツにおいて、保護者が最も恋しく思わないものとしてダントツで1位に挙げられたのが、平均928ドル(0-64,000ドル)/年の費用です (36%)。そこに、遠征(18%)と送り迎えの責任(15%)が続きます。

Project Playがユーススポーツ改善のために乗り越えるべき8つの障壁の一つとして掲げたRising Costs, Commitment(高沸するコストとコミットメント)が、実際に保護者の負担となっていた事がダイレクトに反映されています。パンデミック前は高額で遠征を伴うようなスポーツプログラムがトレンドでしたが、費用・時間・労力と様々な面で負担が少ない地域スポーツへのシフトが起こるとも考えられます。

Play4: 地域リーグの再活性化Project Playが掲げる8つの戦略。その4つ目はRevitalize the in town league (地域リーグの再活性化)です。日本の事情とは必ずしも類似しませんが、同じ轍を踏まないように学ぶ事は大いにあると思います。...
Project Play
Project Playとはーアメリカのユーススポーツ環境改善にむけてアメリカにおけるユーススポーツ環境改善を引っ張るプロジェクト「Project Play」の紹介記事です。同国のLong Term Athlete Developmentにおいて中心的な存在として2013年から活動を続けています。...

コロナウイルスの感染拡大は、アメリカのユーススポーツにおける経済格差を広げた一方、マルチスポーツの文化や地域リーグが復活する種を撒いたとも考えられます。今コラムで紹介したような調査による分析と、Project Playをサポートする企業発信力のあるアスリートの存在によって、より健全なユーススポーツ環境が作られていくきっかけとなる事が期待できます。

MLB選手からのメッセージ

MLBのスター外野手Cody Bellingerは、Project Playにて次のメッセージを保護者に送っています。

Revitalize the in-town league. My advice. Parents, let your kids have fun. Don’t be so anxious to have your kids travel all over the world to play the sport. Let your kids play with friends. The most important thing is having fun in sports. Let your kid have fun, let them get better, let them learn. At the end of the day, It’s all about having fun.

地域リーグの再活性化。私からのアドバイスです。親・保護者の皆さん、子供達にただ楽しませてあげましょう。スポーツをプレーする為に全国を飛び回らなければと躍起にならないでください。友達と遊ばせてあげましょう。一番大切なのは、スポーツを楽しむ事です。楽しませてあげて、(自分達で)成長させてあげて、(自分達で)学ばせてあげましょう。結局は、楽しむ事が全てなのです。

Cody Bellinger
MLB Los Angeles Dogers
Rookie of the Year (2017)
Most Valuable Player (2019)

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