ユーススポーツに限らず、子育てに関する情報を集めていると目にする「自尊心」という言葉。「自らを尊ぶ心」、、、大切な印象はしますが一体何のことでしょうか。また、高めることはできるのでしょうか。
ユーススポーツを題材に考えてみましょう。
記事の信頼性
筆者の中山佑介(@yusuke_0323)は自身も2児の父親であり、米国で運動学の博士号を修めたのち、アスレティックトレーナ―としてNBAを含む日米のプロスポーツチーム・アスリートと関わってきました。研究報告に基づいた情報発信を心がけています。
本記事では、まず自尊心の定義とスポーツが持つポテンシャルを確認します。その後、自尊心を高めるコミュニケーションの土台となる「アサ―ティビネス」の概念と、家庭でできる心掛けとして心理療法士からのアドバイスを紹介します。さいごに、コーチが子どもの自尊心に与える影響の強さを研究論文のデータを用いて共有します。
短い文章ですが、子どもと接する態度やコーチングを含むスポーツ環境を評価する基準に、アサ―ティビネスと自尊心への影響が加わると思います。
自尊心とは
英語でSelf-esteem(SE)と言います。
- Self:自分自身
- Esteem:高く評価する、尊重する
「SEが高い人・低い人」のように表現され、Shrivastava&Mishra(2015)は以下のように記述しています。
A person experiencing high SE believes himself to be fundamentally good, capable, and worthy of love and affection.
SEが高い人は、自分自身が基本的に良い人間、有能であり、愛され、慈しみに値すると信じる。Low SE is a view of oneself as useless, inept and unworthy of love and respect from others.
SEが低い人は、自分自身を役に立たない、能力に欠けた、他者からの愛や敬意に値しないと見なす。
つまり、「自分が価値のある存在である」と思う気持ちです。それでは、自尊心とはどのようにして育まれていくのでしょうか。
アサ―ティビネスとスポーツ
自尊心は他者との関わりの中で様々な影響をうけながら規定されていきます。「人生の縮図」とも例えられるスポーツが子どもの自尊心に強く関与することは想像に難くありません。スポーツ環境では勝ち負けやプレータイムの有無や増減、チームメイトとの意見の相違など、多様なシチュエーションでコミュニケーションが求められますが、その対応には大きく分けて3通りのパターンがあります。
- 自分の意見だけを押し通そうとする(アグレッシブ)
- 自分の意見を言わずに他者の意見だけに従う(パッシブ)
- 自他を尊重したコミュニケーションをとる(アサーティブ)
自分の意見だけを通そうとする子どもは、それがまかり通ったとしても育まれるものは独りよがりな自信であり、自尊心とは違います。その一方、なんでも聞き入れてしまう子どもは、その積み重ねによって自尊心に悪影響を与えかねません。そこで3番目のアサーティブなコミュニケーションです。自他を尊重するもっとも健全なコミュニケーションと考えられており、これを学ぶ事が自尊心の向上に繋がる事は多くの研究報告で示唆されています。アサ―ティビネスをベースとして、スポーツを通して様々な経験をすることが自尊心を育むイメージができたでしょうか。
そして、このアサ―ティビネスの土台を築く場所が家庭です。
アサ―ティビネスを育むために
心理療法士がアドバイスする8つ権利
心理療法士のKatie Hurley氏は、アサ―ティビネスを育むために”I have the right to~ (私には~の権利がある) ”から始まる8つの権利を子どもに伝えることをアドバイスをしています。
- Say “No”
Noと言う(権利) - Be treated with respect
敬意を持って接される(権利) - Express my needs, feelings, thoughts, and ideas
自分の必要としている事、気持ち、考え、アイデアを表現する(権利) - Be proud of my accomplishments
自分が達成したことを誇りに思う(権利) - Disagree in a respectful manner
敬意を持って同意しない(権利) - Feel and express anger
怒りを感じ、表す(権利) - Get help when I need it
必要な時、助けを得る(権利) - Feel supported
サポートされていると感じる(権利)
コーチが子どもの自尊心に与える影響
家庭でアサ―ティビネスが育まれ、アサーティブなコミュニケーションがとれるユースコーチのもとでスポーツができる子どもの自尊心は大きく高まるでしょう。
2014年に発表されたPresident’s Council on Fitness, Sports & Nutritionの特集には、良いコーチは子供の不安を軽減させ、自尊心を高めると記述されています。このポジティブな経験は、LTADが目標として掲げる、人生を通して活動的であること(Active for Life)の礎になります。
古い研究ですが、Barnett et al. (1992)は、シーズン前にスポーツ心理学のワークショップに参加したコーチ達の元でプレーしたリトルリーグの子供達(10-12歳)は、シーズンを通して自尊心の向上が確認され、また翌年のシーズン前にチーム辞める割合は5%と、教育を受けなかったコーチの元でプレーした子供達の26%と比べて大きく差があり、コーチ、チームメイト、スポーツそのものへの評価も、教育を受けたコーチの元でプレーした子供達はポジティブな傾向があった事を報告しています。
コーチ・親・保護者を中心とする大人がアサーティブな態度で子どもと接し、多くの教材を与えてくれるスポーツを自尊心向上の場として活かしていきましょう。