早期競技特化・マルチスポーツ

タイガー・ウッズとジョーダン・スピース(早期競技特化とマルチスポーツ)

トップアスリートの中には、その競技だけを徹底して続けた人もいれば、複数のスポーツをプレーしながら育った人もいます。そこに優劣はあるのでしょうか? 対照的な道を歩みながらも世界のトップレベルまで辿り着いた2人のゴルファーの話です。

記事の信頼性

筆者の中山佑介(@yusuke_0323)は自身も2児の父親であり、米国で運動学の博士号を修めたのち、アスレティックトレーナ―としてNBAを含む日米のプロスポーツチーム・アスリートと関わってきました。

タイガー・ウッズとジョーダン・スピースが世界トップレベルのゴルファーである事に異論を唱える人はいません。しかし、前者はゴルフのみを、後者は複数のスポーツをプレーして育ちました。この2人を例に、スポーツの早期競技特化とマルチスポーツの違いを考察します。

自分の子どものスポーツ環境を考える参考にしてください。

タイガー・ウッズとジョーダン・スピース

ゴルフに詳しくなくても、タイガー・ウッズの名前を聞いた事はある人は多いと思います。ウッズ(1975年生44歳)よりも18歳若いジョーダン・スピース(1993年生26歳)が頭角を現した2015年、スピースは「ウッズ二世」と称されるようになりました。2人ともスポーツ史に残るトップアスリートです。

常人離れした勝負強さだけでなく、70年近い歴史の中で複数のU.S.ジュニアタイトルを獲得したのはこの二人だけ、また飲酒可能な年齢になる前にPGAツアーで優勝している事などの偉業を共有している二人ですが、彼らの幼少期は非常に対照的です。

早期競技特化の申し子とマルチスポーツの申し子

早期競技特化とは思春期前から他のスポーツをせずに、単一のスポーツに年中参加していること”(Jayanthi et al., 2015)です。ウッズは思春期どころか、幼少期から英才教育を受けて育っています。生後18か月で初めてレンジに出て、3歳にして9ホールを50以下で回る(ジャックニコラスが50を切ったのは9歳の時)など逸話には枚挙にいとまがありません。下のビデオは彼が2歳の時のものです。ウッズの育ち方に感化されて自分の子供たちに早期競技特化を促した親・保護者も少なくないでしょう。

スポーツの早期競技特化とは子供が単一のスポーツを早い段階から専門的に行う事(スポーツの早期競技特化:Sports Early Specialization)による怪我のリスク増加などの弊害は、研究を通して報告されています。では、何をもって「早期専門化」と判断するのでしょうか?...

対するスピースは、複数のスポーツを経験しながら育ったマルチスポーツアスリートです。野球・バスケットボール・フットボールも並行してプレーしており、ゴルフに専念したのは13歳の時。野球とどちらを取るか”人生で最も難しい選択”だったと語っています。マルチスポーツの啓蒙者でもあり、彼による下のコメントは数あるマルチスポーツ啓蒙引用の中でも筆者が特に気に入っているものです。

Until I was 12 or 13, I played more baseball than I did golf. I played also football, basketball and soccer. As a result, I learned how to be a teammate, learned how to fall in love with golf as a athlete who plays golf versus a golfer who tries to be an athlete.
(12か13歳になるまで、ゴルフよりも野球をやっていた。他にも、アメフト、バスケットボール、サッカーもね。それによって、よいチームメイトになる術を学び、アスリートになろうとしているゴルファーではなく、アスリートとしてゴルフを愛する事を学んだんだ。)

-Jordan Speith

ウッズが度重なる怪我によって苦しんだ同時期に飛ぶ鳥を落とす勢いだったマルチスポーツアスリートのスピース。そのことでウッズの早期競技特化が再度話題に上りました。

早期競技特化とスポーツ傷害のリスク

早期競技特化アスリートはマルチスポーツアスリートに比べてスポーツ傷害のリスクが高くなると考えられています。2000人を超えるユースアスリートを対象とした研究論文(Post et al.2017)は、思春期前から単一のスポーツを行っているアスリートは、そうでないアスリートに比べて過去の怪我をレポートする傾向が高く(約1.6倍、P<001; OR 1.59; 95%CI 1.26-2.02)、オーバーユースの怪我においても同様に約1.5倍(P=.011; OR 1.45; 95%CI 1.07-1.99)と報告しています。

米国一位の病院が鳴らす、子供のスポーツ早期競技特化への警報Early Specialization(スポーツの早期競技特化)に対する警報は、アメリカの権威ある整形外科からも発せられています。一つのスポーツから年に3か月は休む事などを推奨しています。...

左右非対称の動作がメインの30代後半から40代プロアスリートの怪我が早期競技特化によるものだとは言えませんが、リスク要因として考える事はできます。

次に、筆者が早期競技特化による影響をウッズに感じたエピソードを紹介します。

早期競技特化とロボット的アプローチ

2015年、皮肉にもスピースが優勝を飾ったUSオープンにて、ウッズは予選落ちを喫しました。「改善するために何をするつもりですか」との質問に、同大会を過去4回制していたウッズはこう答えました。

“I just have to work myself out of it”
(ここから抜け出すために頑張るだけだ)

自分が重ねてきたやり方・考え方への固執を感じます。肉体的・精神的な変化にも関わらず、問題解決へのアプローチ方法を一つしか持っていないロボット的なスタイルは他の要素を排除してきた早期競技特化の産物とも考えられます。伝説的なゴルファーであるアーノルドパルマ―は、不調に苦しむ前にもウッズを「ロボット」と表現したことがあるそうです。

ロボットになってしまっている選手達何をするべきか言われ続けた結果、アスリートが自分で考える事ができなくなっているという、元ラグビー日本代表HCのコメントです。トップアスリートに対するコメントですが、掘り下げていくとユーススポーツや教育まで根が張っている問題のように感じます。...

マルチスポーツが推奨される理由

前述のPostら(2017)の研究など、早期競技特化がスポーツ傷害や燃え尽き症候群のリスク増加に繋がるというエビデンスは蓄積しています。また、Project Playのリクエストによってアメリカのオリンピック協会が行った調査によると、71%の米国オリンピック選手(2000-2012)がユース時代に複数のスポーツに参加していた事が分かりました。平均種目数は以下の通りです。

  • 10歳以下—3.11
  • 10-14 —2.99
  • 15-18 —2.20
  • 19-22 —1.27
  • 22- —1.31

加えて、スピース以外にも現場レベルで多くのアスリートやコーチがマルチスポーツをサポートしています。

When a kids gets older, it becomes even more important to play different sports, just for injury prevention. At an early age it just sparks imagination.And you don’t know what the kids gonna gravitate to, you don’t know.You can’t force a kid to be a soccer player or a basketball player.Just put them in a bunch of different sports and see what they gravitate to, see what they enjoy.

複数のスポーツをプレーすることは、子供が大きくなった時には怪我の予防の意味でより大切になります。幼い年齢の時は、創造性に火をつけます。その子供が、どのスポーツに惹かれるか。私たちには分かりません。子供を無理やりサッカー選手にしたり、バスケットボール選手にしたりできません。色々なスポーツを体験させて、何に惹かれるか、何を楽しむかを見るんです。

-Kobe Bryant
NBA MVP(2008)
NBAチャンピオンx5
NBAファイナルMVP x 2
NBAオールスターx18

 

I played shortstop my whole life & I’ve always played a lot of basketball — the way you have to find different ways to win, in whatever sport it is, that helped mold me to the quarterback I am today.

人生を通して(野球の)ショートを守ってきたし、バスケも沢山してきた。どんなスポーツであれ、異なる勝ち方を見つける必要がある。それが今のクォーターバックとしての自分を作り上げてくれた。

-Patrick Mahomes
NFLプレイヤー Kansas City Chiefs
ワールドチャンピオン&スーパーボールMVP(2020)
2018年MVP&最優秀攻撃選手
Pro Bowl(オールスター)x2

 

I just think that the cross-training, the different types of coaching, the different types of locker rooms, the different environments that you practice in, the different challenges — I think it developed a much more competitive, well-rounded type person.

異なった種目を通してのトレーニング、異なるコーチングスタイル、異なるロッカールーム、異なる練習環境、異なるチャレンジ。これらはより競争力があり円熟した人間を育てると思う。

-Dabo Swinney
クリムゾン大学アメリカンフットボールヘッドコーチ
全米チャンピオン2016, 2018, 2020

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スポーツ参加発達モデルに当てはめて

スポーツサンプリングや遊びに焦点を当てて、意図的な練習(Deliberate practice)を少なくした幼少期からのエリートパフォーマンスへの道は、Development Model of Sports Perticipation (DMSP;スポーツ参加発達モデル)でも言及されています(Cote et al., 2007)。ウッズとスピースの対照的な育ち方を、このモデルに当てはめながら思い出してみてください。

まとめ

二人のエリートゴルファーの対照的な育ち方を題材として、早期競技特化とマルチスポーツについて考えるきっかけになったでしょうか。子どものスポーツ環境は親・保護者の判断に多くが委ねられています。後者を支持する理由が蓄積されてきた中での前者の選択は「一つの事を続けた方がよい」「やればやっただけ伸びるはずだ」という思い込みによるものが大きいと思います。なぜスポーツをしてほしいのか、何をスポーツから学んでほしいのか。今回紹介した客観的なデータや、スポーツを専門とするアスリートやコーチの声が参考になれば幸いです。