はじめに
Project Playが設定した8つの障壁。その7つ目がWell-Meaning but Untrained Volunteers:良い意図だが未熟なボランティア(コーチ)です。そして、それに対する戦略として、Train All Coaches:全てのコーチにトレーニング(教育)を施すが掲げられています。
ユースアスリートのオーバーユースによる怪我は、コーチによる責任が多大にあります。MLB史上最高の打者の1人であるAlbert Pujolsは、試合に勝つためではなく、正しいプレーや基本動作を楽しく教えてくれるコーチの元でスポーツをする大切さを説いています。
動画和訳
Play #7, Train All Coaches
全てのコーチ達にトレーニング(教育)を。
My advice to parents is, when you look at coaches that working out with your kids I think most important thing is the time that they get to spend with the kids training thing how to play the game the right way, how to throw the baseball, how to fill the baseball, how to take the swing to the right path.
保護者への私からのアドバイスは、自分の子供達を教えているコーチを見る時に一番大事な事は、そのコーチがどれだけの時間を正しいプレーの仕方、どのようにボールを投げるか、どのようにベースを埋めるか、どのようにバットを正しい軌道で振るかを教えるのに時間を使っているか、という事です。
I think sometimes a lot of the coaches really stay focused just win the game and win the game and overuse if your kids has a great honor to try to overuse it, and that’s something it could be a red flag that you need to look at
多くのコーチが、試合に勝つことだけに焦点を当て過ぎて、子供を酷使してしまっています。そして、それは注意を払はなければいけない危険信号です。
because as you see a lot of kids right now, not just literally, but even in high schools are getting hurt because they are overused because this game is hard and it takes a lot of hard training but it also takes great coaches.
なぜなら、子供達は、高校生ですらオーバーユースによって身体を痛めているからです。このゲーム(野球の意)は過酷で、厳しいトレーニングが必要です。しかし、素晴らしいコーチも必要なのです。
They are willing to spend time with your kids and try to help you out to learn the game, to play the game the right way, and then you know to have fun to enjoy.
素晴らしいコーチ達は、あなたの子供がゲームを、正しいプレーの仕方を、そして楽しむ事を教えようとしてくれます。
And I think when you see a coach having fun and enjoying and laughing about it, that’s something that you should look up for and have your kids work with.
コーチ自身が笑いながら楽しそうにしているのを見たら、そのコーチに自分の子供を教えてもらうと良いでしょう。
補足情報
良いコーチは子供の不安を低減させ、自尊心を高める
2014年に発表されたPresident’s Council on Fitness, Sports & Nutritionの特集には、良いコーチは子供の不安を軽減させ、自尊心を高めると記述されています。このポジティブな経験は、LTADが目標として掲げる、人生を通して活動的であること(Active for Life)の礎になります。
古い研究ですが、Barnett et al. (1992)は、シーズン前にスポーツ心理学のワークショップに参加したコーチ達の元でプレーしたリトルリーグの子供達(10-12歳)は、シーズンを通して自尊心の向上が確認され、また翌年のシーズン前にチーム辞める割合は5%と、教育を受けなかったコーチの元でプレーした子供達の26%と比べて大きく差があり、コーチ、チームメイト、スポーツそのものへの評価も、教育を受けたコーチの元でプレーした子供達はポジティブな傾向があった事を報告しています。
教育を受けたことがあるコーチの割合
Project Playによる定期的な調査によると、アメリカにおいて650万人もいるユーススポーツのコーチの中で、効果的な動機付けテクニック(子供達と上手にコミュニケーションをとる能力)を学んだ事があるコーチは2割以下でした。また、そのスポーツスキルや戦術を(体系的に)学んだ事があるコーチは全体の3割以下だったと報告されています。日本の現状はどうでしょうか。
コーチの質と振舞いへの評価
ESPN w/Aspen Institute Project Playの調査によると、アメリカにおける18歳以下のスポーツに参加している子供を持つ親の6割以上が、コーチの質と振舞いを「大きな懸念」と評価しています。同様に、アメリカYMCAのあるトップは、YMCAにおいて一番求められている事として、教育を受けたコーチの増加を挙げています。
イギリスとカナダにおけるユースコーチトレーニング、日本は?
Project PlayのHPでは、ユースコーチトレーニングの”先進国”としてイギリスとカナダを紹介しています。イギリスは、ユースコーチング文化はトレーニングの枠組みが導入された事により発展を遂げ、Long Term Athlete Development発祥の地カナダでは、”Sports for Life”をコーチング教育のカリキュラムに包容しているとの事です。キーワード検索をしてみるとイギリス・カナダの両国で体系的なコーチングプログラムが見つかり、研究に基づく質の高い情報発信や専門家によるワークショップ・セミナーも多数展開されています。
さて日本はどうだろう、と調べてみると、大学のコーチ教育コースや、海外で教育心理学を学んだ方達が中心となってコーチングに関する情報提供やワークショップを開催している団体などがありました。このような活動がどんどん活発になっていく事を願います。
(「~流」や「~メソッド」といった一つの考え方に傾倒してその枠組みにはめようとするのではなく、国内外の多様な考えを学び、知識を深めながらも流動的に対応できるコーチが理想かなと、2児の父親としては思っています。)
子供達がコーチに求めること
コーチにとって、子供達は「お客様」ではあってはいけないと思います。しかし、双方向のコミュニケーションを確立するためには、相手が何を求めているかを理解する必要があります。Visek et al.(2015)らの研究報告によると、子供達がコーチに求めることのトップ5は以下になります。
- Respect and Encouragement(尊重と励まし)
- Positive Role Model(ポジティブな模範であること)
- Clear, Consistent Communication(クリアで矛盾のないコミュニケーション)
- Knowledge of Sport(スポーツの知識)
- Someone Who Listens(話をしっかり聞いてくれること)
子供にスポーツを教える立場にある人は、上記の5つを常に頭に置いておくべきでしょう。
ユースコーチ教育のリソース
例の一つとして、アメリカのオリンピック協会、ナイキ、Project Playによってつくられた”How to Coach Kids”という活動があります。ウェブサイトには、素晴らしい質と量の教材が溢れています。無料のクラスも以下の5つのトピックで提供しています。
- 1. How to Coach Kids(子供のコーチング)
- 2. Coaching Girls(女の子を対象としたコーチング)
- 3. Coaching kids Ages 2-6(2歳から6歳までの子供を対象としたコーチング)
- 4. Coaching kids ages 7-11(同7歳から11歳)
- 5. Coaching kids Ages 12-14(同12歳から14歳)
↑のような形でのオンラインクラスを受講できます。対応言語は英語とスペイン語だけですが、アイデアを掴むだけでも登録(無料)して覗いてみる価値は多いにあります。
他にも、スポーツ別にとどまらず、Developing physical literacy(身体の賢さの発達)ライフスキル、練習プランのチェックリストなど、トピック別でのコーチング教材へのアクセスがこのページからできます。How to Coach Kids、ぜひチェックしてみてください。
最後に
Well-Meaning but Untrained Volunteers:良い意図だが未熟なボランティア(コーチ)という問題に対する、Train All Coaches:全てのコーチにトレーニング(教育)を施すという戦略の紹介でした。アメリカに住んでいた時、誰々のお父さんがボランティアコーチ、という環境を僕も目にしており、問題の根は素人でも「スポーツを知っている」=「コーチングができる」という勘違いにあると感じていました。
コーチングはサイエンスであり、アートでもある専門職であり、新しい研究や情報によって進歩し続けているはずです。ライセンスシステムがある競技レベルのコーチでなくても、子供達の今と将来の健康に関わる立場にあるユースコーチ達には、安全と健康、そしてコミュニケーションに焦点をあてた教育システムが義務化されるべきだと考えています。
(原文/情報源:http://youthreport.projectplay.us/the-8-plays/train-all-coaches)