元ラグビー日本代表HCによる警報
“The problem is players are becoming robotic. They are followers rather than leaders, because they get told what to do all the time. There told where to be, what to eat, what to wear and how to think. You are robbing them of the opportunity to grow as people“(選手達がロボットになってしまっている。常に何をするべきか言われ続けているので、リーダーではなくフォロワーになっている。何処にいるべきか、何を食べるべきか、何を着るべきか、どう考えるべきか。人として成長する機会を奪ってしまっている。)
Eddie Jones
元ラグビー日本代表のHCで、現在はイングランド代表を率いるエディー・ジョーンズ氏の、4年前イングランド代表にHCとして合流した時の事を回想した記事の中でのコメント。元記事のタイトルは”Players follow blindly even when they are badly led (酷いリードの元でも、盲目に追従する選手達)”です。
トップアスリートに対するコメントですが、掘り下げていくとユーススポーツや教育まで根が張っている問題のように感じます。
教育とは
教える事と、育てる事。前者はコーチ・教師が選手・生徒に知識を授ける事で可能ですが、後者は学ぶ側が自主的に行動し、失敗と成功を重ねる事でしか達成できないと思います。心身が未熟で、成長の過程にあるユーススポーツが重点をおくべきは、勝利よりも教「育」であるべきです。
子供達に戦略を徹底して覚えさせ、繰り返し練習させれば、試合では勝てるようになるでしょう。高校で日本一になった僕の友人の「先生の言う事を何も考えずに繰り返していて、気がついたら日本一になっていた」という状況です。そこに「育」はありません。教わった事を正確に再現する事が正しいとされ、自分で考えて失敗する事が推奨されない環境では人は育たないのです。また、そのような環境では意見の対立と人としての対立が混同されやすく、その結果人は発言を恐れ、自由な思考は鈍り、一方通行のコミュニケーションが助長されます。
外国人コーチ・選手から見た日本人アスリートの特徴
上記のような環境で育った個が集まった組織は停滞し、長期的な成長はもちろん、変化する状況への臨機応変な対応は難しいでしょう。流動的なチームスポーツの国際試合で日本が苦戦する傾向があるのは、身体的な不利だけではないように思います。
日本人アスリートを指導した経験があるコーチ達、日本人アスリートと対戦またはチームメイトになった事がある外国人アスリート達がよく口にするのは、日本人の勤勉さを揃って称えた上で、「瞬間的に考えて判断する事が苦手」という事です。特に試合中に相手に読まれたり、チームメイトがミスして決められた通りに作戦が遂行できなくなった瞬間の判断力と応用力です。創造力よりも遂行力を優先したコーチングの負の産物だと思います。
予想外の状況への対応力に優れたNBA選手達
NBAで仕事をしていた時、チームの作戦通りに行かない事は(驚くほど)多くありました。コーチ達のF*ckを何度聞いた事でしょう。それでも選手達は失敗した作戦を、限られた時間の中で新しい形にしてしまいます。そこから生まれたハイライトは幾つもありました。状況を打破する個の技術と、瞬間的に考えて判断する力があってこそできる芸当で、その力が突出していたのがLeBron James選手だったと思います。同選手は、オーガナイズされていない年上相手のピックアップゲームによって力が磨かれたと公言しています。
創造力を養う場としてのユーススポーツ
子供なら誰でも持っている創造力の種。失敗する事がむしろ推奨されるような自由な環境で、大きく大きく育ててあげたいものです。勝利を目指した一方的なコーチングは、まだ小さな木に無理やり実を付けさせているようなもの。耐えられなければ折れてしまうし、折れずに耐えきったとしても秘めたポテンシャルが花開く事はないでしょう。実を付けるのは、大きく健やかに育ったその後で、その後の方が良いはずです。ユーススポーツが、スポーツの枠を超えた創造力を養う場へと変わっていく未来を信じて、小さな活動を続けていきます。