コーチ・アスリートの声

元全日本選手が開催する、指導者が怒ってはいけないバレーボール大会

NHKのおはよう日本HPに、「女子バレー元日本代表 益子直美さん 指導者は“怒ってはいけない」という記事が掲載されました。少年サッカーの保護者向け情報サイト「サカイク」とウェブメディア「Number」に掲載されたインタビュー記事からの引用と合わせて、思う事をまとめました。

益子直美さん

元バレーボール前日本代表選手で、引退後はタレント、スポーツキャスター、大学女子バレー部監督などと幅広く活動されている方です。

  • 中学時代にバレーボールを開始、3年時に東京選抜
  • 高校3年時には全日本代表メンバー入り
  • 日本リーグ新人王(1986年)
  • 世界選手権出場(1986年、1990年)
  • ワールドカップ出場(1989年)
  • 1990年日本リーグ優勝&ベスト6受賞

このように、輝かしい選手キャリアを歩んでいますが、心の内は”輝いていた”とはかけ離れていたようです。先月で6回目の開催となった「指導者が怒ってはいけない」がルールの益子直美カップ小学生バレーボール大会との繋がりとは。

「怒ってはいけない」バレーボール大会開催の背景

得意だけれど大嫌いだったバレー

選手がスポーツを選んだのではなく、スポーツが選手を選んだ」。つまり、そのスポーツが特別好きではなくても、プロレベルまで辿り着くケースは日米で実際に見てきましたが、「大嫌い」でありながら、国を代表するレベルでプレーしていたという話は初めて聞きました。

自分がなぜバレーボールが大嫌いなのかがわかったのです。中学、高校と、厳しい指導を受けてきました。私たちの時代はそれが当たり前でしたし、おかしいとか、理不尽とか、何とも思いませんでした。

サカイク「厳しい指導」を受けてきた元全日本代表、益子直美さんが「怒らない指導」を始めた理由より

  • 中学・高校時代の写真で、笑っているものがない
  • 高校卒業まで怒られないようにすることだけ考えてバレーをしていた
  • 引退するまで、バレーを楽しめなかった

選手時代の気持ちを振り返り書き出すと、褒められた事がない、自信がない、考える事をしない、楽しくない、などに加え、「早くやめたい」も出てきたそうです。

国を代表するレベルでプレーできる選手がそのスポーツを「大嫌い」になってしまうような環境は異常と言うほかありません。

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弱いけれど楽しそうで、勝負際に強いアメリカ

そんな気持ちでプレーをしていた現役時代に対戦したアメリカ。衝撃を受けたそうです。

今でこそアメリカは強いですけど、当時はすごく弱くて、バレーボールの基礎もできていなかったんですよ。ただ、基本ができていないから、失敗して怒られることもないし、安定はしていないんだけどすごく楽しそうだった。そういうチームって、ジュースになってからがとても強いんです。私なんてお願いだからこっちにトスをあげないで、ミスをしたらどうしようってガチガチなのに、アメリカの選手はここで決めたらヒーローだ!って、すごい伸び伸びとしていて。あのプレースタイルには憧れましたね。

Number記事引退して27年。元バレーボールの益子直美を駆り立てる辛かった選手時代の思い出。より

 

これらのエピソードから、今の子供達には、自身が体験した辛い思いをさせず、憧れたプレースタイルが生まれる環境で育って欲しいという深く強い動機が伝わってきます。

自分で判断する力・チャレンジする勇気

小中高生たちを、怒って委縮させる指導では、考えて自分で判断する力を養うことができないと思います。

サカイク「選手時代はバレーが大嫌いだった」益子直美さんが自信の過去から気づいた、選手を伸ばす環境とはより

刻々と変わる試合状況において、チームの決め事に縛られずその瞬間でベストの行動を取る「See and React(見て反応する)」とも表現される能力は、競技レベルが上がれば上がるほどその重要性を増します。これは決められた事を遂行する事だけを求め、その失敗に対して怒って子供を委縮させる指導では養えないどころか、退化していきます。

益子直美カップに参加したチームの小学6年生から「監督が怒らない事が分かったので、普段取りにいけないボールにもチャレンジできた」という手紙を貰ったというエピソードがNumberの記事で紹介されています。怒られる事を恐れる委縮は、チャレンジする勇気を奪ってしまい、子供達が自分の可能性を試す機会を奪ってしまいます。

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怒る、怒られている、のギャップ

450チーム以上が参加するという「怒らない」ことがルールの益子直美カップでは、子供の自己申告も「監督が怒った」判定の基準で、怒った監督には益子さんが”叱り”に行き、必要であれば次大会の出場停止まで伝えるそうです。

サカイクのインタビュー内で紹介されている、指導者側は「怒っていない・怒るうちに入らない」と思っていても、子供が「怒られている」と感じるギャップの下りを、指導者は是非読んで欲しいと思います。通常のユーススポーツ環境では指導者側の言い分が通ってしまうところを、指導者が認める第3者(益子さん)の存在によって指導者が自分を省みる機会を生み出しています。大会に参加した指導者の「自分たちで考えさせる。いいプレーにつながったのかな。どういう指導方法があるのか学んだので、一つ一つ勉強をしていきたい。」というコメントも紹介されています。

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コーチ・監督に最も影響を与えられるのは

現役・元トップアスリートだと僕は思っています。

僕が先日Twitter上で実施したアンケートは、以下の結果でした(回答者の素性を確かめる事はできませんし、回答数そのものも少ないですが)。

益子さんの選手としての有無を言わせぬキャリアと知名度は、ユーススポーツ環境をコントロールしているコーチ・監督に対してここまでの影響力を持っている大きな要素だと思います。本人も、そこに使命感を持っているのではと推測します。

ユーススポーツ環境改善を目指した情報発信している身として、彼女に続いて現役・元アスリートの方々が動き出す事を、心から期待しています。僕にできる協力は惜しみません。

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さいごに

益子直美さんの活動は、今回取り上げたNHK、サカイク、Numberの記事以外でも多く取り上げられています。ユーススポーツに携わる親・保護者・コーチ・監督、そして現役・元アスリートは、是非読んでください。

セミナー情報

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