このHPではLTADモデル(長期アスリート育成モデル)を軸にユーススポーツに関する情報を発信していますが、そもそも子供達がスポーツをするメリットとは何でしょうか。
(子供達がスポーツをする理由はこちらを)
子供の発育に変化が
”幼少期(満年齢で1歳-9歳)は成長発達のステージの中でもヒトとしての動きを担保する直立歩行が確立し、個人的にも手段的にも活発な、そして複雑な身体活動を獲得しながら、日常的に身体活動を行える条件が生理的に整い、それを本格的に開始する時期である”(健康・スポーツ科学分科会による提言 子供の動きの健全な育成を目指してより)
つまり、幼少期の身体活動は発達において非常に大事な時期だという事です。
現代の5歳児の運動能力=30年前の3歳児の運動能力?
上記提言内で紹介されている中村ら(2011)の調査は、走る・跳ぶ・投げる・捕る・つく・転がる・平均台を移動するの7動作の動きの質において、2007年の年長児(5歳児)は1985年の年少児(3歳児)の水準にあると報告しています。同調査が行われて13年経ちますが、スマートフォンの普及や生活様式の変化によって、この傾向はさらに加速している事が予想されます。
運動能力低下どころか、ロコモティブシンドロームに
ロコモティブシンドローム(運動器症候群)とは、体を動かす筋肉や骨、関節など運動器の障害により、「立つ」「歩く」といった基本的な動作能力が低下した状態を指します。それが、現代では高齢者だけではなく子供にも当てはまることが指摘されています。
2019年の時事メディカルに掲載された記事、子供にも「ロコモ」生活に体動かす遊びをには・片脚でしっかり立つ・腕を真っすぐ上げる・しゃがみ込む・体を前屈させる、という基本動作が一つでもできない子どもが、調査対象の幼稚園児から中学生までの1343人中約4割に上ったという報告がされています。
転んでも手を付けない・まっすぐに走れない・正しく投げられないといった子供も増加していると言われています。
幼少期に適切な運動能力を獲得できない事は身体活動・運動量の不足に起因しており、それに伴う小児肥満・成人期の生活習慣病発症リスク増加は国内外の研究で報告されています。
スポーツに参加するメリット
週2-3時間のスポーツ参加でも起きる変化
年齢や性別に関係なく、週2-3時間のスポーツ参加が心肺・代謝・筋骨システムにおけるポジティブな順応が有意に起こり、また肥満のリスクを7%減少させる事が分かっています(Visek et al., 2015)。週に2-3時間というのは、実に2%以下の時間です。社会問題とも言える子供の運動不足による運動能力の低下へのアプローチとして、まずは無理のない範囲でスポーツに参加する事が薦められます。
アクティブな子供は、より良い人生を歩む
”Active Kids Do Better in Life(活動的な子供は、より良い人生を過ごす)”と題された上記の図(https://www.aspenprojectplay.org/youth-sports-factsより)には、活動的である事のメリットとして以下の点がまとめられています。
- 肥満のリスクが1/10に
- 学業面でのテストスコア~40%↑*
- 喫煙・薬物・高リスクの性行為などのリスク↓*
- 大学進学率15%↑*
- 年収7-8%↑*
- 健康維持費↓
- 仕事での生産性↑*
- 心臓疾患・脳卒中・ガン・糖尿病のリスク↓
- 老後に障害を抱える率が1/3に
また、運動習慣のある母親の子供は活動的である傾向がある(2倍!)とい記述に、親から始めようというメッセージも込められています。同時に、運動不足の子供達が運動をしない親になると、、、という負の連鎖も示唆しています。
社会・情緒・認知・精神衛生面でのメリット
研究による裏付け
上記のリストで*をつけたのは、身体面以外のメリットです。2018年に発表されたBidzan-Blumaらによるシステマティックレビューはキーワードから選ばれた617件の研究論文の内、厳格な基準に沿って絞った58件を分析・統合した上で”Results suggest that engaging in sports in late childhood positively influences cognitive and emotional functions. (幼少期後半にスポーツに参加する事は、認知と情緒面においてポジティブな影響を与える)と結論付けられています。具体的にはattention(注意), thinking(思考), language(言語), learning(学習), memory(記憶)の5つのエリアにおいてです。
女性経営者の成功の裏にあるスポーツ体験
400名を超える女性経営者を対象とした調査では、94%がスポーツを経験しており、うち61%がスポーツで学んだ諦めない強さ、野心、自信などを主な理由として、現在のキャリアの成功にスポーツが寄与している事を認めています。
運動習慣が、遺伝的うつ病リスクを相殺する
ハーバード大学が中心となって約8,000人の遺伝データを用いて行われた研究(Choi et al., 2019)によると、週に3時間の運動(ランニング・ヨガ・ウォーキングなど強度・種類を問わず)をしている人は、運動習慣がない人よりも鬱にならない傾向があり、そのリスクは運動時間が30分増えるごとに17%ずつ減少したと報告しています。また、遺伝的にうつ病のリスクが高くても頻繁な運動習慣がある人は、遺伝的なリスクが低くて運動習慣がない人に比べて発病の率が低い事も報告されています。
子供の運動とは関係ないのでは、と思うかもしれませんが、幼少期の運動経験は大人になってからの運動習慣に繋がる事が報告されています。
大統領の任務にさえ役に立つスポーツ経験
大のスポーツ好きとして知られるオバマ前大統領は、ユーススポーツにおける脳震盪対策サミットの挨拶にて以下のコメントを残しています。
I learned so many lessons playing sports that I carry on to this day, even to the presidency.
私は非常に多くの事をスポーツから学んだ。そしてそれは、大統領としての任務にも役に立っている。ーオバマ前大統領
まとめ
- 子供の運動能力が低下している
- 運動機能不全の兆候がある子供達が増加している
- 小児肥満・青年期生活習慣病のリスク増加の原因
- 週2-3時間のスポーツ参加でも身体にはポジティブな変化が起きる
- 身体面に限らず、社会・情緒・認知・精神衛生面でのメリットも研究に裏付けされている
- 幼少期の運動経験は大人になってからの運動習慣に繋がる
- 一国の大統領でさえ、スポーツから学んだ事を活かしている
子供にとって、スポーツ・身体活動は多くの面でメリットがある事が分かったと思います。同時に、スポーツ・身体活動を行わないデメリットも理解していただけたのではないでしょうか。しかし、世界レベルで子供がスポーツから離れていってしまっています。その背景には勝利至上主義や早期競技特化による心身の摩耗や、コーチからの暴言・暴行など、大人が原因である健全でないユーススポーツ環境があります。
このHPでは、マルチスポーツや遊びの重要さを中心に、スポーツ・身体活動をいかに良い形で子供達に提供できるかの情報発信をしています。是非他のエントリーも読んでみてください。
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