そもそも存在するのでしょうか?
Hooren&Croix(2020)の論文Sensitive Periods to Train General Motor Abilities in Children and Adolescents:Do They Exist? A Critical Appraisalを紹介します。
運動能力の構成要素
運動に必要とされる能力は多岐に渡りますが、モデル構成や利便性の為に(表現に違いはあれど)以下の5分野に単純化される事が殆どです。
- 柔軟性
- スピード
- 技術・調整能力
- 持久力
- 筋力
感受性期(Sensitive Period)
上記のそれぞれの分野を伸ばすのに適した時期(Sensitive Period: 感受性期)があり、それに基づいたトレーニングを行う事が合理的、またはこの時期を逃すと特定の能力獲得が困難になるという考え方があります。
上図のように、この分野別の感受性期(▢)は最大身長成長速度(PHV)と共に論じられる事が多く、柔軟性とスピードの向上から始まり、そこから技術の獲得へ、身長の伸びが一番著しい時期に持久力を、そして身長の伸びが緩やかになる時期に筋力を、というのが性別に関わらず大まかな考え方です。
還元主義(Reductionism)と科学的根拠
Hooren&Croix(2020)がReductionism(還元主義)と表現する、運動能力の分類に基づくそれぞれの感受性期に合わせたアプローチ方法は、オランダのテニス(2016年)やカナダのローイング(2012年)のLTADモデルに取り入れられています。そこには、アスリートとしての能力を最大限に引き出すには、それぞれの能力をそれぞれの感受性期に集中的に伸ばす事が大事であるという前述の考えがあります。しかし、その科学的根拠は乏しいとされています(Baily et al., 2010, Ford et al., 2011&2012)。
このような背景もあり、MLBのLTADモデル(2017年)は感受性期を採用していません。
運動能力を分類する問題点
そもそも、パフォーマンスの還元主義のベースである運動能力の分類は理に叶っているのでしょうか。「スピード」を例にすると、陸上での全力疾走の速度が想像しやすいと思いますが、地面に足がついていない水泳の速度もまたスピードです。道具を使ったスケートや自転車の速度もスピードです。これらを全て「スピード」として一括りにしてしまう問題点が見えてきます。道具を使う場合は、バランス能力がより必要となりますし、水の抵抗が存在する水泳においては上半身の筋力がスピードに寄与する割合は陸上のスピードとは異なります。
また、握力と膝の伸展力の相関が低いこと(筋力)や、手と目の協調力に関する異なるテスト結果にも個人内でバラつきがある事を報告する研究もあります。
結論ー全体主義のススメ
これらを総合して、Hooren&Croixは一般的な運動能力というものは存在せず、それぞれの運動スキルは部分的にタスク特異な能力たちの複雑な統合による産物であると述べています。その上で、還元主義ではなく、過去のトレーニング経験や遺伝による個人差や、トレーニング方法による影響も考慮にいれた以下のHolism(全体主義)を推奨しています。
その上でHooren&Croixは、
”They should no longer rely on generic sensitive periods as proposed on LTAD models, but rather train all physical attributes during all stages of development” (ユーススポーツにおいて)感受性期に基づく考えではなく、全ての成長段階において全ての身体要素を向上させるべきである。
と結論付けています。
少し難しい表現が続きましたが、年齢に関係なく幅広い動作の中で運動に関わる全ての要素を継続して育てていきましょう、という事です。NSCAのLTADガイドラインとも一致しています。また、スポーツサンプリングやマルチスポーツへの参加は、自然とこの考えを体現してくれそうです。
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