XPERTコラム

10年550億円という巨大契約を結んだアメフト選手は、 高校時代はベースボールの方が上手かった

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https://xpert.link/column/182/

これまでユーススポーツにおける課題や取り組みについて解説してきました。今回は幼少期から複数のスポーツに関わることの重要性について解説いたします。また、実例としてPatrick Mahomes選手(NFL)を挙げ、彼の幼少期からどのような環境で複数のスポーツに関わってきたのかについてもご紹介いたします。

Patrick Mahomes

Patrick Mahomesというアメリカンフットボール(アメフト)選手をご存じでしょうか?昨シーズン、Kansas City Chiefsを全米優勝へと導いた24歳は、先日10年間503ミリオンドル(約550億円)という巨大契約を同チームと結び大きな話題となっています。

著者が同選手に注目するようになったのは、今年1月に彼がスーパーボール(決勝戦)MVPに輝いた際に、 “Patrick Mahomes became the NFL’s best quarterback by refusing to specialize in football (アメフトに専念することを拒み、NFL最高のクォーターバック*になった)”というワシントンポストの記事を読み、彼のマルチスポーツアスリートとしてのバックグラウンドを知った事がきっかけです。NFLのスター選手としてだけでなく、マルチスポーツの申し子としても、大きな注目を集めているアスリートです。今コラムでは、彼のストーリーを通してマルチスポーツの魅力をお伝えしたいと思います。

*クォーターバックとは、攻撃の選手にプレーを指示するリーダーの役割を追うポジションであり、ほとんどのプレーコールで攻撃の起点となる指令塔のポジションです。(Wikipedia)

出典)Patrick Mahomes | 2019-20 Highlights ᴴᴰ.Sports Productions.youtubeより

More is Better

高校時代にアメフト、ベースボール、バスケットボールの3つのスポーツをプレーしており、この経験が現在のクォーターバックとしての能力に寄与していると彼自身も明言しています。父親によるとこの3つのスポーツの中ではベースボール、バスケットボール、アメフトの順に上手だったというので驚きです。複数スポーツとの関わりは幼少期からで、「アメフト、ベースボール、バスケットボール、その他どんなボールだろうと、Patrickはただ遊びたがった」と彼の母親は振り返っています。高校3年生の時にアメフトを辞めようとしていたPatrickを思いとどまらせたのも、この母親だそうです。

最高のクォーターバックを支える、ベースボールとバスケットボールの経験

様々な腕の角度から放たれる正確なパスは、ショートを守っていた時に培われ、相手を攪乱するトレードマークのノールックパスはポイントガードとして身に付けた技術・能力であり、アメフトに専念することを選んでいたら得る事はできなかったと本人が信じているといいます。

高校時代にMLBチームにドラフトされる

本人が当時の自分を「アメフトをプレーしているベースボール選手」と表現したように、投げては時速90マイル(約145キロ)以上の剛球で16奪三振のノーヒットノーランを達成した投手兼ショートは、高校の最終年にメジャーリーグ球団にドラフトされますが、大学でアメフトを続けるために辞退しています。

DivisionⅠでプレーできていた、バスケットボールのスキル

ベースボールほど知られていませんが、ポイントガードとしてプレーしていたバスケットボールの能力も非常に高く、彼がNFL選手になった後のオフシーズントレーニングで披露したバスケットボールの技術は世間を驚かせました。高校時代のアスレティックディレクターは、バスケットボールに専念していれば大学はDivision Iでプレーしていただろうと話しています。

複数のスポーツを通して勝ち方を学ぶ

Patrickにとっては、競技が変わろうと足場が変わるだけで一つ一つが大切な試合である事に変わりはなかったといいます。彼の高校アメフトのコーチは、一年間に10試合しかない高校アメフトに専念せず、バスケットボールとベースボールでも試合を重ねる事で勝ち方を学んだのだろうと振り返っています。“人生を通してショートを守ってきたし、バスケも沢山してきた。どんなスポーツであれ、異なる勝ち方を見つける必要がある。それが今のクォーターバックとしての自分を作り上げてくれた。”と本人も同様のコメントを残しています。

指導者に恵まれる

前述の高校時代のコーチは「まずはアスリートを育て、次にアメフト選手を育てる」という考えを持っていたそうで、Patrickがベースボールとバスケットボールもプレーすることを積極的にサポートしていたようです。このような指導者の元でプレーできた事は幸運だったと言えるでしょう。

他のスポーツを禁止された、マルチスポーツの申し子

今回のスポーツ史に残る大型契約は、マルチスポーツの産物と考える事もできるでしょう。ところが、この大型契約には怪我のリスク管理として、競争心の強いPatrickがバスケットボールやベースボールを始めとする多くのスポーツに参加する事を禁止する条項が組み込まれているそうです。皮肉な感じがしなくもないですが、球団としては当然のリクエストとも言えます。NFLから引退後、草野球やバスケットボールのピックアップゲームを楽しむ姿が想像できます。

マルチスポーツの利点

Patrick Mahomesのストーリーは、複数のスポーツが最終的に専門スポーツの能力として活かされているという例ですが、その他にも複数のスポーツを経験することには、以下のような利点があります。
■リーダーシップ・チームワークのより良い理解と獲得
■燃え尽き症候群の予防
■オーバーユースによる怪我の予防
■様々なコーチングスタイルとの出会い
■自分に向いたスポーツとの出会い

見方を変えると、早期に一つのスポーツに特化することは、上記とは逆のリスクを負うという事です。ボールの種類を問わず、ただ遊びたがった所から始まり、高校でも3つのスポーツをプレーし、その時は3つの中で一番下手だったスポーツでNFLの頂点に立ったPatrick Mahomesのストーリーからは、学ぶことが多いでしょう。

参考記事;
「Patrick Mahomes became the NFL’s best quarterback by refusing to specialize in football」The Washignton post
「Chiefs’ Patrick Mahomes emerges from the deep end of the gene poolPatrick Mahomes’ precocious skills hinted at great things. At 24, he’s a Super Bowl QB. 」Star Tibune
「Tim Crone: Mahomes proof that three is better than one」The Examiner
「The making of Patrick Mahomes, the highest-paid man in sports history」Sky Sports