XPERTコラム

教育学をスポーツ現場で応用する際に役立つポイント

医療、ヘルスケア、スポーツに関わる専門家が学び・つながり・活躍するためのプラットフォームXPERT(https://xpert.link/)にて毎月掲載させていただいているコラムの転載記事です。

前回のコラムでは、子どもの認知面の発達と、子どもを導くための教育学(Pedagogy)を紹介しました。しかし、どれほど学問としての知識を得たとしても、実際の現場で子供たちと接すると必ずしもセオリー通りには物事は進まないでしょう。例えば、子供向けのプログラムには、協力的でなかったり、悪ふざけをしたり、説明中におしゃべりをしたりと、いわゆる「オフタスク行動」をする参加者が少数いることは珍しくありません。今回のコラムでは、Essentials of Youth Fitness (Faigenbaumら 著)などを参考に、現場での応用に役立つポイントを紹介します。

Expect the Unexpected (不測の事態を予測する)

一人一人の子供は異なります。全ての状況をカバーする解決策は存在しないこと、つまり不測の事態が起こる事は当たり前だという理解をすることが第一歩です。その上で基本的なアプローチ方法や、プログラムの指針を押さえていきましょう。

オフタスク行動への対処法

まず、前述のオフタスク行動に対して、Graham (2008) が以下の4つを紹介しています。

Back to the Wall 壁を背にする

大人は体育館の壁やグラウンドの端を意識して自分のポジションを決めることにより、プログラムに参加している子供たちの全てを同時にとはいかなくても、できるだけ多くの子供たちに目を配り、オフタスク行動にいち早く気づくことができます。

Proximity Control 距離でのコントロール

大人は一定の場所に留まらず、前述の壁を意識しながらプログラムの進行中に動くことで、オフタスク行動をしている子供たちに向かって近づくなど、距離を使って彼らの行動に気が付いている事を知らせます。これにより、オフタスク行動を抑制、または加速を制御します。

Positive Pinpointing ポジティブな指摘

オフタスク行動を見つける事も大切ですが、ポジティブな振る舞い・行動をしている参加者を認識する事も大切です。そのような参加者を他の参加者たちの前で指摘する事によってプログラムの雰囲気を作ります。そのためにも、運営者は参加者全員の名前を覚える必要があります。

Active Voice アクティブボイス

声のトーン、テンポ、大きさを使い分けてメッセージを伝えます。場合によっては沈黙が子供たちからの注目を集めるために有効であったり、オフタスク行動や危険性の高い行動に乗じている場合は、力を込めた声が適切でしょう。声に限らず、表情やボディランゲージを含むメッセージの送り方は、相手の受け取り方・受け止め方に影響します。

健全なスポーツ・運動プログラムの特徴を表す5つのC

以下は、Jonesら(2011) が紹介している、Cから始まる以下の5つのキーワードです。これらを子供たちが育めるような環境であるか、プログラムのフレームワークを評価する上で参考になると思います。

  1. Competence:能力
  2. Confidence:自信
  3. Connection:繋がり
  4. Character:性格・品性
  5. Caring:思いやり

ユースアスリートに関わる大人の12か条

さいごに、Faigenbaum & Meadors(2016)がCoach’s Dozenと銘打った、ユースアスリートに関わる大人が心に留めておくべき12か条を紹介します。

1.Ensure a safe exercise environment 安全な環境を確保する

十分な広さがあり、整理されていて、換気が良く、照明がしっかりしていること。参加者の身体の大きさに合った器具があり、ダンベルやプレートなどのアイテムが適切な場所に保管されていること。参加者は適切な服装であり、大人は定期的に安全のためのルールを確認すること。

2.Stay connected 参加者との繋がりを保つ

大人が子供たちとの繋がりを保てるかどうかは、そのプログラムの質を大きく左右します。時間をかけて子供たちの名前を覚え、個々の心配事に対応し、参加している全ての子供たちに真摯な関心を寄せること。積極的に質問をすることを促し、皮肉な言葉の使用は決してしないこと。

3.Be enthusiastic 情熱的であること

教える事に情熱的でない大人から、子供たちが情熱を持って学ぶことはないでしょう。情熱は伝染的で、ポジティブな学ぶ環境へと繋がります。大人が、運動・フィットネス・スポーツに対して情熱的であること。知識と経験に加え、参加している子供全員が各々の能力において最善を発揮する助けになる事に真摯に関心をもつこと。

4.Foster creativity 創造性を育む

創造性と子供のフィットネスには繋がりがあります。子供たちに安全で刺激的、かつ楽しい新しいゲームやエクササイズを創る機会を与えるなど、子供たちが想像力を使い、仲間との協調・協力や創造的なエネルギーの発散をする環境をつくる努力を惜しまないこと。

5.Understand the process  過程を理解する

身体的な能力を身に着け、受け入れられているという実感を持ち、楽しむことは、子供たちにとって強い動機になります。エクササイズの回数や頻度などだけに重きを置かず、上手くできた時は褒め、上手くいかなかくても人として好かれている事を子供たちが感じられるように接すること。

6.Deliver clear instructions 明確な指示を伝える

受け取り手を意識した伝え方は効果的な教育に必須です。エクササイズやゲームを説明するとき、例えやデモンストレーションを用い、言葉のトーンや選択も参加者の理解に影響力があることも意識すること。

7.Diversity the portfolio 多様性に富ませる

子供たちは、様々なエクササイズやスポーツを、様々な環境や異なるメンバーと行うことで、楽しさを見出し、身体的・精神的・社会的な成長を最大化することができます。参加する子供たちの発達に適したチャレンジングかつ楽しい数多くの動作スキルや活動を含む、成長を促す刺激にあふれたプログラムを提供すること。

8.Learn from mistakes 失敗から学ぶ

新しいエクササイズや複雑なスキルを発揮するときに失敗はつきものです。それを否定的な視点でとらえず、価値ある学びの過程であることを認識し、伝えます。子供たちと大人が協力して、お互いに学びながら長期的な目標を達成するための知識やスキルを身に着けていくこと。

9.Be patient 辛抱強くある

性急なアプローチは、怪我のリスクを上げ、子供たちの長期的なポテンシャルを制限することに繋がります。その場しのぎの解決策や早いステップアップの誘惑にとらわれず、子供たちには個人差があり、動作スキルの発達には段階がある事を理解して、時には後戻りする忍耐強さを持つこと。

10.Maximize recovery  回復を最大化する

トレーニングと回復のバランスは、身体が刺激に順応する上で年齢に関係なく必要です。トレーニングは多いほど良いという考えは逆効果になり得ること、健康に必要な十分な水分・栄養補給と睡眠が、スポーツや運動中の学びを促進に繋がることを理解すること。

11.Think long-term 長期的に考える

トレーニングへの順応を最適化し、子供たちの心身一体的な発達を促進するためには、短期的な結果や手っ取り早い解決策を求めず、長期的なアプローチが必要です。必要に応じてプログラムを後戻りする判断もすること。

12.Enjoy the game 楽しむ

子供のフィットネス・スポーツ・運動プログラムにおける楽しさの重要性を過小評価してはいけません。楽しみながら新しいスキルを身に着けていくとき、子供たちはより積極的で活発な学び手になります。変化を続ける子供たちのスキルとタスクの難易度の良いバランスを保ち、子供たちにとって、スポーツや運動を楽しいものであり続けさせること。

まとめ

今回のコラムでは、実際の環境での応用を意識して、オフタスク行動をコントロールするための4つのポイントプログラムの評価に役立つ5つのC、そしてユースアスリートに関わる際に心に留めておきたい12か条を紹介しました。これらは決定的・包括的なものではありません。子供のスポーツ・運動に関わる大人がより安全・効果的・楽しいプログラムを提供する上で役に立つ指針や情報と考えていただければと思います。

 

参考文献:

Faigenbaum, A., & Meadors, L. (2016). A coaches dozen: An update on building healthy, strong and resiliant young athletes. Strength and Conditioning, 39(2), 27-33.

Faigenbaum, A. D., Lloyd, R. S., & Oliver, J. L. (2020). Essentials of youth fitness. Champaign, IL: Human Kinetics.

Graham, G. (2008). Teaching children physical education. Champaign, IL: Human Kinetics.

Jones, M., Dunn, J., Holt, N., Sullivan, P., & Bloom, G. (2011). Exploring the “5Cs” of positive youth development in sport. Journal of Sport Behavior. Retrieved from www.highbeam.com/doc/1G1-263992245.html