医療、ヘルスケア、スポーツに関わる専門家が学び・つながり・活躍するためのプラットフォームXPERT(https://xpert.link/)にて毎月掲載させていただいているコラムの転載記事です。
ニュージーランドの国家的取組みとプラットフォーム「Balance is Better」
一年前、「ニュージーランドにおけるユーススポーツ問題に対する国家的取組み(https://xpert.link/column/98/)」というタイトルの記事を書かせていただきました。
その記事の中で、
- より多くの若い人達がスポーツとレクリエーションに参加すること
- より多くの大人がスポーツとレクリエーションに参加すること
- 国際大会で、より多くの勝者を輩出すること
の3つを活動理念として掲げてニュージーランドのスポーツを統括するSports NZによるユーススポーツ環境改善を目指すキャンペーン「Keep up with the play(遊びを続けよう)」とそのプラットフォーム「Balance is Better(特化よりバランスを)」を紹介しました。
あれから一年の間に、同キャンペーンの始まりとも言える2019年のStatement of Intent(趣旨書)に同意と署名をした同国メジャースポーツ団体5つ(ラグビー、クリケット、フットボール、ネットボール、ホッケーニュージーランド)にゴルフ、ソフトボール、バレーボール、バドミントンニュージーランドなどの団体が加わり、楽しさと発達をユーススポーツの焦点とし、既存の競技構造の見直しと、早期競技特化ではなくマルチスポーツを推奨する動きが続けられてきました。
拡大を続けるBalance is Better
そして先日、バスケットボールニュージーランド(BBNZ)が前出の趣旨書に署名をし、正式にBalance is Betterを通しての活動に参加することになりました。ゼネラルマネージャーのBrad Edwards氏は次のように述べています。
私たちはなぜ子供たちがスポーツをするのか― 楽しむため、挑戦するため、成長し上達するため、チームやグループの一員になるため、友達と楽しい時間を共有するため― を見失ってしまう時がある。バスケットボールにおいて、Balance is Betterとは全てのステージでバスケットボールを楽しむ機会を提供すること、楽しさと発育により焦点を当てること、競争と勝ち負けへの焦点を減らすこと、参加者の心身の健康に気を配ること、そして異なるポジションでのプレーや異なるスポーツへの参加を推奨することです。
Sport NZのチーフエグゼクティブであるRaelene Castle氏はこう続きます。
私たちは、子ども達が(スポーツを通して)提供されているもの、そして私たちと子どもとの関わり方を変える必要があります。ベストプレイヤーたちだけでなく、全ての参加者に質の高い機会を提供する必要があります。スポーツは私たちの文化と多くのニュージーランド人の心身の健康にとって大きな存在であり重要ですが、今のスポーツの在り方は子ども達が求めているものに見合っていません。多くの子どもたちがスポーツから離れていっています。私たちはその声が聞こえているから知っているのです。
バスケットボールスター選手からのメッセージ
17歳の時に年代別の代表に入り、19年間のプロキャリアを歩んで2018年に引退したニュージーランドのバスケットボールスターDillon Boucher氏は、コーチと保護者に次のメッセージを送っています。
全ての事に楽しさを。子供たちは楽しんでいる限り、スポーツを続けるチャンスが大きくなり、結果としてより高いパフォーマンスに繋がる事にもなる。子供たちに楽しませてあげることが、あなたが子どもに望む旅路へといざなってくれるでしょう。
また、
自分がスポーツを始めた理由を思い出すこと。自分を興奮させるものや、スポーツの楽しさを再燃させてくれる小さなことに立ち戻ると、スポーツを続けたくなると思う。
と子ども達に向けても言葉を続けました。
Dillon氏は4児の父親で、彼の子ども達はバスケットボール、ネットボール、タッチ、バレーボールと複数のスポーツを楽しんでいるとの事で、インタビュー記事には「複数のスポーツをプレーしよう。早くに特化するのは避けよう。」という手書きのメッセージボードを掲げたDillan氏の写真が掲載されています。
充実したコンテンツ
久しぶりに訪れたBalance is Betterは、誰でも視聴できるウェビナーやインタビュー記事、コラムが一層充実していました。「毎シーズンの始まりにスポーツペアレンツが自身に問うべき5つの質問」「遅咲きは本当に不利なのか?」を例とする保護者向けの短めの記事、「素晴らしい中学校のスポーツコーチになるために―成功の定義、失敗vs結果、自分の価値」のように踏み込んだ内容の動画コンテンツ、「他のスポーツを通して、より良い本業のクリケット選手・人へと成長した」というタイトルのトップアスリートが生い立ちを振り返る企画など、まさに学びの宝庫です。
さいごに
早期競技特化や勝利至上主義という同じ問題の根を共有しつつも、問題意識を持つ個人が集まった力の強さを感じるアメリカのProject Playとは少し異なる、国としての団結を感じるプラットフォーム「Balance is Better」、是非チェックしてみてください。そして、同じ問題をもつ我が国のユーススポーツに対して、どのようなアプローチが必要なのかを考えてみてください。