2019年の夏、一人の少年が大勢の記者の前で「全てのスポーツからの引退」会見を開きました。
http://www.espn.com/video/clip/_/id/27320691
まずは故コービー・ブライアントがツイッターでこのニュースをSNSで共有し(↓)、一つのキャンペーンが始まりました。
And so it’s come to this. Kids everywhere are retiring from sports. This is unacceptable. Parents, coaches and leagues need to change or get out of the way. Let kids find joy in sports before it’s too late. #DontRetireKid @AspenInstSports https://t.co/IBNjBEczOk
— Kobe Bryant (@kobebryant) August 3, 2019
(多くの子ども達がスポーツから引退している。容認できない。親、コーチ、リーグはあり方を変えるか、道を空ける必要がある。遅くなりすぎる前に、子ども達にスポーツの楽しみを見つけさせてあげるんだ。)-コービーブライアント
Don’t Retire, Kidキャンペーン
”Don’t retire, kid(少年少女よ、引退するなかれ)”という名のこのキャンペーンは、非営利団体Aspen Instituteが立ちあげたユーススポーツ環境改善を目指す”Project Play”によって、一年前の2019年8月に始まりました。上記の動画は、Project PlayがESPNとArnold Worldwide(広告代理店)と協力して制作したキックオフ動画です。
ESPNがこの動画を使ったPSA(Public Service Announcement:社会問題などへの意識を高めるための放送キャンペーン)を始め、クレイトン・カーショウやアルバート・プホルスといった名だたるアスリートたちがSNSでこの活動を広め、1週間で1億6700万もの回数が表示されといいます。
NFLのデトロイト・ライオンズとバッファロー・ビルズはスタジアム内でDon’t Retire, KidのPSAを実施し、MLB, NBA, PGAを始めとするProject Play 2020のメンバーも同様の活動に続きました。
子ども達が平均して3年以下しかスポーツに参加していない事や、11歳までにスポーツへの参加を辞めてしまっているといったユーススポーツの現状を伝える調査や、ユースアスリートと関わるコーチ・親への助言といったリソースに富んだProject Play (Don’t Retire, Kidキャンペーンの母体)のHPへのアクセスは6倍になり、優れた社会活動を表彰するHalo Awardを受賞するなど、認知・評価されました。
コロナウイルスとProject Play
コロナウイルスの感染拡大によって、アメリカのユーススポーツも大きな影響を受けました。Project Play/Don’t Retire, Kidの活動も当然、コロナウイルスとユーススポーツというテーマに重きが置かれました。アメリカのスポーツ活動停止から2週間後の4月1日、Project Playは第一回のウェビナー「Coronavirus and Youth Sports – What The Future Holds(コロナウイルスとユーススポーツ – 将来の展望)」を開催し、専門家たちが今後の展望を共有しました(サマリー掲載HPはこちら)。その後、計8回のウェビナーが開催されており、後日Youtubeで聴講できるようになっています。ディスカッションはアメリカスポーツ医学会の会長・MLBユース育成機構のディレクターといった各トピックに適した専門家だけでなく、大学進学を控えた高校生アスリートなどによって展開されます。
第二回ウェビナー「How to Manage the Crisis(危局のマネジメント方法)」
第三回ウェビナー「What Kids Need from Coaches Now(子ども達が今、コーチから求めているもの)」
第四回ウェビナー「How to Play During the Crisis(危局の中、どう遊ぶか)」
第五回ウェビナー「How Should Yout Sports Return to Play?(ユーススポーツはどのように再開するべきか?)」
第六回ウェビナー「The Path Forward(進むべき路)」
第七回ウェビナー「Prioritizing Life Skills as We Return to Play(スポーツ再開の中で、ライフスキルを優先する)」
第八回ウェビナー「Reimagining School Sports in America(アメリカの学校スポーツを見つめ直す)」
次回のウェビナー「The Reform We Need Now(私たちに今必要な変革)」は、8月26日に開催されます。興味のある方は、こちらへ。僕も聴講する予定です。
Don’t Retire, Kidの母体であるProject Playの今後
Don’t Retire, Kidを含む、Project Playの過去3年間に渡る第一期の活動は、以下のメンバーによって展開されてきました。改めて見ると、錚々たる顔ぶれです。
(www.aspenprojectplay.org/whoweworkwithより)
- Amazon
- American College of Sports Medicine
- DICK’S Sporting Goods
- ESPN
- Hospital for Special Surgery
- Major League Baseball
- National Basketball Association
- National Hockey League
- NBC Sports / SportsEngine
- New York Road Runners
- PGA of America
- Nike
- PHICOR at the City University of New York
- Ralph C. Wilson, Jr. Foundation
- Sports Facilities Advisory | Sports Facilities Management
- Sports & Fitness Industry Association
- Target
- Under Armour
- U.S. Olympic & Paralympic Committee
- U.S. Tennis Association
これからの数週間で、Aspen Institute(Project Playを展開している母体)のSports and Spciety Program(スポーツと社会プログラム)は、 第二期のProject Play2020を推し進めるグループを発表するとのことです。第一期のグループは、”バラバラだった各部門をまとめ、変化のための理論を作り上げ、12歳以下の子ども達のスポーツ参加率を増加させるための土台を敷きました”。上記のメンバーの多くを含みつつ、新しい活動エージェントを加えたという次のグループが、ここからどう発展させていくのか、注目です。
最後に
エグゼクティブディレクターのTom Farreyは、Don’t Retire, Kidがこの一年間で与えたインパクトをまとめたレポート記事を以下のコメントで締めくくっています。
Collective impact takes time. Trust-building leads to a shared agenda, which ignites mutually reinforcing actions and later, if sufficiently aligned, systems change. The effort is all that more challenging when applied nationally and in a space as disjointed as youth sports.
(全体的な影響には時間がかかるものだ。信頼を積み上げる事が共通した議題へと繋がり、それが互いの行動を支えることになり、後に十分に足並みが揃えば、システムが変わる。その努力は、まとまりのない全国のユーススポーツに適用する際には、より難しく・やりがいがあることだ。)
Kobe is no longer with us, but, knowing his passion for developing the social and emotional lives of children through sports, I’m sure he would agree.
(コービーは、この世を去った。だが、スポーツを通して子ども達の社会的・情緒的側面を育むことへの彼の情熱を考えると、同意してくれるはずだ。)
-Tom Farrey
Exective Director of Aspen Institute Sports & Society Program
Project Playの活動に関する過去記事や、Project Play2020の錚々たるメンバーから分かるように、明確なビジョン、継続的な情報発信、アスリート・文化人・企業からのサポートと共にユーススポーツ環境の改善を目指した活動が続けられていますが、それでも先は長い道のりである事が伝わってきます。文化的な要素は当然ありますが、本腰を入れたユーススポーツ環境の改善には何が・どのような規模で必要なのか、考えさせられます。
“Give Sports Back to Kids (子ども達にスポーツを返してあげよう)“
Project Playで使われているフレーズです。
(リソース: https://www.aspenprojectplay.org/dont-retire-kid/retrospective)