American Academy of Pediatrics(アメリカ小児科学会)による、ユーススポーツ環境に対するクリニカルレポート(Brenner et al., 2016)をまとめます。このレポート内でも、スポーツの専門化を「他のスポーツをせずに、単一のスポーツに年中参加していること」の意味で使っています。
レポートの目的
以下の項目に対する検証やレビューをしています。
- ユーススポーツの現状と単一スポーツ専門化の背景
- 専門化と激しいトレーニングによる身体的影響の懸念
- 18歳以下のアスリートのスポーツ専門化に関する疑問
- 小児科医へのガイドライン
アメリカ小児科学会とは
- アメリカ合衆国おける小児科学分野の学会
- 殆どのアメリカ人小児科医が会員(67,000名)
- 全ての乳幼児、青少年のために最適な体や心の健康、社会的な健全さ、幸福(Well-being)を実現することを使命とする
今回まとめるレポートの他にも、慢性スポーツ傷害・トレーニング過多・燃え尽き症候群に関するレポートなども発表しています。少し古い(2007)ですが、後日まとめようと思います。
まず導入文にて、以下の現象を言及しています。
減っているもの
- 近所の子供達が大人抜きで遊ぶ”ピックアップゲーム”
- 高校で複数のスポーツに参加するアスリート
増えているもの
- スポーツをする目的が乖離している子供と親・保護者
- 1つのスポーツだけに専念し、そのスポーツにおいて複数のチームに在籍する子供
- 慢性スポーツ傷害・オーバートレーニング・燃え尽き症候群
ユーススポーツからの恩恵
- 人生を通して有用な身体運動のスキル発達
- 友達との社会的なつきあい
- チームワーク・リーダーシップの構築・発達
- 自己肯定感の向上
- 楽しみ
数字から
- 1997から2008年の10年間でユーススポーツ人口は4,500万人から6,000万人に増加
- うち6歳以下の割合は6%から12%に増加
- 27%が1つのスポーツだけの参加
- 70%の子供たちが13歳前に組織的なスポーツから脱退
- 7歳から選考ベースのリーグスポーツが存在
- 3.3-11.3%の高校生が大学(NCAA)レベルで競技を続け、奨学金を得ているのは1%だけ
- 0.03-0.5%の高校生がプロのレベルに到達
- 87%のNFLコンバイン(ドラフト候補生の身体能力テスト)に招待されたアスリートは、高校生時代に複数のスポーツをプレー
- 慢性スポーツ傷害のリスクが増加する要因
- 週の合計練習時間>16時間(高校生)
- 大人にコントロールされたスポーツと自由な遊びの時間の割合>2:1
- 週の合計練習時間>ユースアスリートの年齢
専門化(Specialization)と多様化(Sampling・Diversification)
専門化(Specialization)を対と成す概念が、多様化です。色々なスポーツを試す事をSampling(サンプリング)と表現しますが、このレポートではDiversificationを使っています。同義のようではありますが、サンプリングを経て、多様なスポーツに長期的に参加するニュアンスとして僕は捉えています。
Diversificationの恩恵は、次に紹介する怪我のリスク低下だけではありません。
- 様々な社会的交流を経験する事を通した、将来に必要とされる感情や自己調節機能の強化
- スポーツそのものからの脱退の抑制
- リーダーシップスキルの養育
- 内在的モチベーションの形成
- 複数スポーツに参加する事による怪我のリスク低下
などが挙げられています。
このレポート内で一番多くの参考文献が使われているのが、”Athletes who participate in a variety of sports have fewer injuries and play sports longer than those who specialize before puberty (複数のスポーツに参加するアスリートは、思春期前に単一化をしたアスリートよりも傷害が少なく、より長くプレーしている).”という記述です。
また、Even when the athlete is driven to take his or her game to the next level, evidence is mounting that specialization in a single sport before puberty may not be the best way to accomplish this goal for the majority of sports (アスリート本人が高いレベルでの競技を志している場合でも、殆どの競技において思春期前の専門化はその目標を達成するための一番の方法ではないという証拠は積み重なってきている)とい記述も言及しておきます。
フィジカルリテラシーのABCs
レポート内にて、フィジカルリテラシーは「基本的な動作・スポーツスキルの獲得」という簡単に定義されており、構成するものが以下のABCsとして紹介されています。
- A: Agility(敏捷性)
- B: Balance(バランス能力)
- C: Coordination(協同・調整能力)
- S: Speed(スピード)
小児科医へのガイドライン
レポートのまとめとして、ユースアスリートと関わる小児科医への9つのガイドラインが記述されています。
- ユーススポーツの主な目的は、楽しむ事と人生を通しての運動スキルを身につけること
- 思春期前まで複数のスポーツをする事は、怪我・ストレス・燃え尽き症候群のリスクを減らす
- 殆どのスポーツにおいて、遅い専門化はユースアスリートのゴール達成により高い確率で繋がる
- 幼少期に複数のスポーツに触れる事は、人生を通してのスポーツへの参加と健康維持に繋がる
- 1つのスポーツへの専門化を決めたユースアスリートと、その目的が適切・現実的であり、
(コーチ・親ではなく)アスリート本人のものか話し合う - 子供のスポーツにとって最善とは何かを認識し、“エリート”を謳うスポーツプログラムの
トレーニング・コーチング環境を注意深くモニターする - 特定のスポーツから、1年の内最低でも3か月は“オフ”の期間を設ける
- 特定のスポーツから最低でも週1-2日の“オフ”を設ける事で、怪我のリスクを減らす
- ユースアスリートの心身の成長と成熟度、そして栄養面の状態をしっかりとモニターする
セミナー情報
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