以前、「子供の運動不足は何故問題か」というエントリーで世界的な運動不足について、アメリカ政府のガイドラインを元に紹介しました。
今回はその続き・補足として、世界的に起きている運動不足問題を通知表という形で捉えていた研究と、カナダの取り組み、そしてEDD(Exercise Deficit Disorder: 運動不足病)に対する介入のモデルを紹介します。
世界の運動量通知表
Aubertら(2018)は、49か国からの研究者と協力して、5-17歳の子供たちに関して「全体的な運動量」や「管理されたスポーツ・運動環境」「能動的な移動・通学状況」などを含む10項目を国別にAからFで評価する通知表を作成しました。
運動量に関しては、推奨されている基準を満たしている子供たちが全体の94%以上であればA+、87-93%でA、、、、20%以下であればFという形で評価した図が以下になります。世界平均は、なんとDでした。Physical Activity Guidelines for Americans 2nd Editionを元に推奨されている運動量は以下の通りなので、これを満たしている子供たちは、わずか27-33%という結果になります。
- 中‐高強度の身体活動を60分/1日
- 週に3日は、60分の身体活動に筋肉を強くする運動を含むこと
- 週に3日は、60分の身体活動の中に骨を強くする運動を含むこと
国別の取り組み(カナダの例)
LTAD発祥の地カナダでは、国として毎年の子供の運動環境の評価を行っています(図はhttps://www.participaction.com/en-ca/resources/children-and-youth-report-cardより)。地域別の平均歩数やデバイス別のスクリーンタイム時間に加え、上記の「通知表」と同じ項目が評価されています。また、同ページには毎年アップデートされるトピック別のインフォグラフィックを中心としたリソースも提供されており、日本でも県別・地域別で取り組みを行う際の素晴らしい見本になると思います。
臨床マーカー、ラボテスト、薬が存在しない病
世界の運動通知表や、カナダの取り組み例を紹介しましたが、その第一目的はExercise Deficit Disorder(運動不足病、と訳します)を解消するためといえます。この用語は、前述の推奨運動量を満たしていない状態を危機感をもって認識するために使われるようになりました。
子供の健康診断に運動量のスクリーニングを
子供たちは、定期的に身長や体重、視力や聴力を検査します。その中に、運動量のスクリーニングを含めるべきだと考えられています。肥満や高血圧の子供たちだけを対象にした運動による介入は、症状に対応するだけの所謂Symptom-reactiveと呼ばれる戦略であり、長期的には非効率的だからです。以下の図は、Straccioliniら(2014)が提唱するモデルです。
活発な幼少期は適切な動作スキルの獲得において重要であり、その後の人生の運動習慣にも大きな影響を与えることが複数の研究報告によって示唆されています。乳児期においても、一般的な発育過程(首がすわる・ねがえりを打つ・はいはいをする)の時間軸に沿っていたとしても運動量は不十分である事もあるので、過度なテレビ時間やベビーカーで過ごす時間への注意が呼びかけられています。
ユースフィットネス専門家
上の図で使われているYFS(Youth Fitness Specialist:ユースフィットネス専門家)は、子供に特定のスポーツを教える事ができるだけでは務まりません。子供たちの能力と適性を見極め、トレーニング順応の最適化を図り、フィジカルリテラシーを促進することで自己肯定感を養います。そのためには、安全で楽しめる運動環境を確保する必要があります。アメリカでも独立した複数の団体が資格を発行しているため統一性はまだない印象ですが、子供の指導に関わる大人は体系的に勉強する価値と必要がある領域だと思っています。
負のスパイラルに陥らないように
世界の7割前後の子供たちが、下の図のスパイラルに陥る危機にさらされています。
活動的な乳児期・幼少期を過ごすためには保護者の環境づくりが、そしてポジティブな運動・スポーツ経験を通して運動スキルや自信を育んで成長後の運動習慣に繋げるためには、ユーススポーツに関わる大人、特に指導者が大きな役割を担います。その責任は、試合の勝ち負けよりもずっと重要な事です。