”バスケットボールの神”ことマイケルジョーダンが主役を演じ、アニメのキャラクターと力を合わせてバスケで宇宙人たちに挑むSpace Jam(スペースジャム)が公開されたのが1996年。そのマイケルジョーダンと史上最高の選手はどちらかと比べられるレブロンジェームスが主演を務めた続編が、2021年に公開されました。「NBAのスーパースターが登場するバスケットボール映画」に留まらない、このブログにも通じるメッセージがあると感じました。(これから観る人の楽しみを奪わないように配慮をしますが、気になる人はまず映画を観てから読んでください。)
オフィシャルサイト→https://wwws.warnerbros.co.jp/space-players/
バスケットボールではなく、親子のストーリー
スペースジャムとスペースプレーヤーズは共にNBAのスーパースターがアニメのキャラクターと力を合わせてバスケの試合で勝利を掴むという大きな共通点がありますが、一方で作品中の子どもが果たす役割は大きく異なります。
スペースジャムでは、マイケルジョーダンの息子は家に現れたアニメのキャラクターを発見します。僕の記憶に残る登場シーンはこのくらいですが、スペースプレイヤーズでは12歳の次男(Dom)がストーリーを通して中心人物として登場し続けます。レブロン‐Domの親子関係の成長にメッセージが込められているように思いました。
世代・時代・個人差による価値観のすれ違い
ストーリーの序盤は、レブロンが自分の幼少期にかけられた言葉と自分が歩んできた道を支えた価値観が前面に押し出されています(引用は全て映画中の話です)。
映画はレブロンの子供時代のシーンから始まります。友達が試合会場に持ってきたゲームボーイで遊んでいたレブロンに対して、コーチはこう言います。
Getting your head in the game starts before
you even step onto the court
コートに足を踏み入れる前から試合に意識を集中するんだYou could be a once in a generation talent
if you focus on the game of basketball and not these distractions
雑音に惑わされずバスケットボールに集中すれば、
唯一無二の存在になれる才能がある
上のような言葉をかけられて育ち、実際に唯一無二のバスケ選手となったレブロン。自身のハードワークによって建てられた豪邸のバスケコートで12歳らしくふざける次男に対してもそれを伝えます。
Everything in between these four lines is work
この4本の線(=バスケコート)の中では全てが鍛錬だYou cannot be great without putting in the work
努力無くしてグレートになることはできない
しかし、俺は一日中練習しているぜ!という長男とは違い、これらの言葉はDomには響きません。響かないどころか、レブロンを唖然とさせる言葉がDomの口から発せられます。
You make me hate basketball
お父さんが僕をバスケ嫌いにするんだ
You neve let me do what I want to do
You never let me just do me
僕がやりたい事を一度もさせてくれないじゃないか
”僕”をさせてくれないじゃないか
口を開けばバスケットボールやハードワークの父親に対し、”僕をさせて(do me)くれない”という独特の表現で抗議する息子。しかしレブロンは”俺が12歳の時は”という一方通行のスタンスで対応をしてしまいます。
“子供がスポーツを辞めたくなる一番のきっかけは、試合後の車中での親との会話”
“試合終了の10分後には、子供の興味は他に移っている。夕食の席でその試合についてまだ話したがるのは、たいてい保護者である”
子どものスポーツが戻ってきた今、学びを活かしたいものです。https://t.co/JLLjEORoHE
— 中山佑介 Yusuke Nakayama (@yusuke_0323) November 15, 2021
あなたはコーチ?父親?
自分の価値観が、何よりも大切な家族に響かないフラストレーションを抱えるレブロンに、妻が諭すように話かけます。
Have you though about talking to your son
about something other than basketball?
あなたはバスケットボール以外の事を息子に話そうと思ったことがある?He doesn’t need a coach.
He needs his dad.
彼に必要なのはコーチではないわ。
父親よ。
レブロンはシングルマザー家庭で育ったという背景があります。自分にはいなかった父親の存在。その役割を、人生のガイドとなったバスケットボールを介して果たそうとするのは、自然なことなのかもしれません。
(この2人の会話が行われたのは、僕の記憶が正しければ寝室です。父親と母親が2人だけで本音を伝えられる空間と時間の大切さを感じました。)
ハッと気づいたレブロン、とはなりませんでしたが、Domが好きな(自分が子供時代に”雑音”と言われた)ビデオゲームを一緒にプレーしたり、ストーリーのメイン舞台へと繋がる映画会社のプロジェクトミーティングに招待したりと、バスケットボールが全てではないという姿勢を見せます。
子どもは成長と共に自身の価値観が形成されていきます。我が家では、親にとっては興味の無い事を息子達がやっている時に(Youtubeの番組とか)、関心を示すように心がけています。これにより親の世界も広がり、子どものことや彼らを取り巻く環境・流行りを知ることができ、なによりも「まずは関心を持つ」という姿勢を伝えていければと思っています。
聴くこと・知ること
映画の見どころである試合は、レブロン以外のNBA/WNBA選手を模したキャラクターが登場したりと、純粋なエンターテイメントとして肩の力を抜いて楽しめます。ところどころに出てくるセリフや振る舞い、有名なプレーを模したシーンはNBAファンには堪らないでしょう。
お決まりの展開で、レブロン率いるチームは劣勢に立たされます。その原因がチームメイトたちが「レブロンのように」プレーしようとしていたことに気付いたレブロンは、こう言います。
Bugs. Time to do what you guys do best.
みんな、それぞれが一番得意なことをする時間がきた
この言葉によって解き放たれ、シリアスとは真逆のスタイルで本領を発揮するチームメイトの姿に、レブロンは自分とDomの関係を省みます。そしてとても深い意味を持つ言葉を息子に伝えます。
I guess I would have know that if I would have listened more.
Sorry I didn’t.
もっと君の言う事に耳を傾けていたら、知っていたのかもしれない。
それをしなくてすまなかった。I’m still learning how. You’re teaching me. I want you to be yourself.
まだ(父親として)学んでいる最中で、君が教えてくれている。君らしくいてほしい。
Remember Fun?
楽しさを覚えてる?
作中に、何度か登場するセリフです。
子どもに、そして自分自身に時折投げかけてみてはいかがでしょうか。
自分らしさと楽しさ
”Be Yourself 自分らしく”と”楽しさ”とは何かを改めて考えさせられました。バスケットボールやビデオゲームなど「具体的な好きな事をしている自分」に目がいきがちですが、注目すべきは、より抽象的なその時の感情かもしれません。その人の根源的な欲求を満たすような経験や感情を得られる手段をより多く知ることが、自分らしく生きていくための鍵のように思います。
バスケットしか知らない人は「バスケ=自分らしさ」と考えるかもしれませんが、他のスポーツに出会い同じ感情を得られたのであれば、それは「スポーツをしている自分=自分らしさ」と抽象度が上がります。さらに抽象的に「身体を動かしている自分」や「注目されている自分」かもしれません。これらの気づきが選択肢の幅を広げ、自分らしい人生に繋がるのではないでしょうか。この気づきへのきっかけを提供し続けたい一親として思っています。
受け継がれるもの
スペースプレーヤーズの副題が”New Legacy”です。現実(?)のレブロンジェームスが自身もよく口にし、彼のキャリア・人生を表すキーワードでもある”Legacy”は、単なる「業績」よりも「世代から世代へ受け継ぐものごと」というニュアンスが一番しっくりきます。
私たち大人は、次の世代に何を受け継ぎ、何を受け継がせないべきでしょうか。
勝利至上主義が蔓延うユーススポーツ環境の改善に積極的に取り組んでいた故コービーブライアントを思い出しました。