はじめに
子供が単一のスポーツを早い段階から専門的に行う事(スポーツの早期競技特化:Sports Early Specialization)による怪我のリスク増加などの弊害は、研究を通して報告されています。では、何をもって「早期競技特化」と判断するのでしょうか?
実は、明確な定義はまだ存在しません。
スポーツの早期競技特化(Early Specialization)の定義
数多く発表されている研究論文で、よく使わている定義がJayanthi et al., (2015)による”Year round participation in a single sport at the exclusion of other sports (他のスポーツをせずに、単一のスポーツに年中参加していること)”です。
他にも、プレー年数を考慮に入れた定義の元行われた研究もあります。
一つのスポーツに2年以上参加している+他のスポーツへの参加が2年以下:専門化
2つ以上のスポーツに2年以上参加している:マルチスポーツ
(DiCesare et al., 2019)
年数に関係なく単一のスポーツだけに参加している:専門化
年数に関係なく2つ以上のスポーツに参加している:マルチスポーツ
(Hall et al, 2015)
下の図のように、カテゴリー分けをする考え方もあります。カテゴリー別に怪我のリスクを調べた研究です。図では低・中・高となっていますが、別エントリーで数字と一緒にまとめようと思います。
そして、この分野の研究論文を読むと必ず出てくるフレーズが
「明確な定義を確立する必要がある」
です。
早期競技特化の定義が難しい理由
では、なぜ定義が確立していないのでしょうか?
それを難しくしている一番の理由が「専門化の程度」を定義するのが難しいからです。
”Year round participation in a single sport at the exclusion of other sports (他のスポーツをせずに、単一のスポーツに年中参加していること)”
一番よく使われる定義ですが、週1で一つのスポーツに参加している子供も、週5で一つのスポーツに参加している子供も同じ扱いになってしまいます。
そこで前項目の図のように、条件によってカテゴリー分けをした場合にも、次のような問題が出てきます。
すべて「中度の競技特化」(単一スポーツを一年中行っている前提)
- 習っているスポーツはラグビーを週1回1時間/回だけ、他では身体を動かさない
- 習っているスポーツは週1回1時間のサッカーだけ、休み時間や放課後に遊びで色々なスポーツをしている時間の方が長い
- 野球を週5回3時間/回で習っている
これらの問題は、以下の要素が考慮されていない事に起因します
- 遊びを通しての運動・スポーツとの比率
- 日、週、月、年の頻度と合計時間
条件によって上下する競技特化レベルが現実的ではないケース
- 現在は一年中サッカーしかプレーしていない:中度のスポーツ専門化
- もしサッカーを始める前にやっていた2週間に一度の野球を辞めていた場合:高度のスポーツ専門化
- 野球を辞めて、サッカーとバスケットボールの両方週6日プレーしている場合:低度のスポーツ専門化
研究上の問題点
早期競技特化の明確な定義が存在しない事以外にも、以下のような問題点を克服する事が、より精度の高い研究を行う上で必要です。
- 被験者の記憶に頼ったデータ収集(リコールバイアス)
- 前向き研究が存在しない
- 年齢、身体の大きさ、スキルレベル、などが考慮に入っていない
身体面だけではなく、子供がどのような気持ちでスポーツを行っているのかも考慮に入れる必要があるかもしれません。
今まで発表された研究論文は意味がないのか?
問題点ゼロの完璧な研究というものは存在しません。この分野においても、明確な定義がまだ確立されておらず、上記のような解決すべき問題があるとはいえ、発表されているデータを総合して判断すると、スポーツの早期競技特化は怪我のリスク増加を含め、避けるべき現象だと考えています。
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