8つの戦略

Play6: 育成・発達を意識する

はじめに

Project Playが設定した8つの障壁。その6つ目がToo Much, Too Soon:やりすぎ・早すぎです。そして、それに対する戦略として、Design for Development:育成・発達を意識するが掲げられています。

人は1人1人違う。そんな当たり前の事を、子供のスポーツ技術の習得において忘れてしまいがちです。NBAのスーパースター、Kobe Bryantが、大人が引いた立場から見守る事の大切さを話しています。

動画和訳

Play #6, design for development. My advice to parents and caregivers.
育成・発達を意識する。私からの、親・保護者へのアドバイスです。

Every kids is different. We all know that every kids develops differently.
子供達は、1人1人違います。そして、1人1人の発達・発育もそれぞれです。

Now I’ve seen kids touch a basketball for 2 months and become insanely good really really quickly. I’ve seen kids develop over a period of two or three years.
バスケットボールを手に取って、2か月間でとんでもなく上手になった子供もいれば、2年3年かけて上達する子供達もいます。

Everybody develops at their own pace.
みんな、それぞれのペースで上達していくのです。

The most important thing is just continuing to do the work piece by piece, and as parents not to get frustrated or coaches not to get frustrated because the kids not developing as quickly as you want them to but just sit back and let them develop at their own pace.
大切なのは、少しずつ積み上げていく事と、親やコーチが自分たちの願う速度で子供達が上達しないからとイライラせずに、身を引いて子供達のペースで成長させてあげる事です。

補足情報

子供は大人のミニチュア版ではない

多くの6歳未満の子供は、ボールを真っ直ぐ投げるための神経接続がまだ発達しておらず、多くの8歳以下の子供はボールを打つ事に苦戦するし、10-11歳で習熟した跳躍ができる子供は殆どいません(Seefeldt & Haubernstricker, 1982)。するな、と言われてもボールに群がりたがるし、まだサンタクロースを信じている子だっている年齢です。そんな大人どころか思春期ですらない子供達の、精神・情緒・そして身体的な発達過程を考慮したスポーツ経験をさせてあげる事が大切です。

チームの成功よりも、個人の成長を

多くの子供達に対して一つのボールという正規のルールでは、1人1人の子供がボールに触る事ができる回数は限られます。2014年にアメリカオリンピック協会が作ったAmerican Development Model(ADM)は、ボールの数を多くして、プレッシャーの少ない状況下で基礎的な運動スキルを発達させることを推奨しています。この考え方は、チームよりも個人の発達を重要視しており、遅咲きの子供達にも成長するチャンスを与えます。この考え方は球技に限りません。

American Development Model

アメリカ国民が自分のAthletic Potential(アスリートとしての潜在能力)を認識し、また活動的で健康なライフスタイルへの道としてスポーツを活用するために、アメリカのオリンピック協会によって作られたADMは、コーチによるトレーニング、親・保護者の関わり、クラブスポーツ運営、全体的な安全面における概略を示しています。

5大原則

より良いスポーツ経験をし、より多くのアメリカ国民がスポーツに参加する為に、ADMは以下の原則を提唱しています。ここでも発達・発育に重点が置かれているのが分かります。

  1. Universal access to create opportunity for all athletes (運動する全ての人への平等な機会提供)
  2. Developmentally appropriate activities that emphasize motor and foundational skills (運動スキルと基本スキルに重点をおいた、発達段階に適した活動)
  3. Multi-sport participation(複数スポーツへの参加)
  4. Fun, engaging and progressively challenging atmosphere(楽しく、能動的で、段階を踏んだチャレンジができる雰囲気)
  5. Quality coaching at all age levels(全ての年齢層での質の高いコーチング)

ADMに関しては、単独の別記事でいずれまとめようと思います。

練習の構成等に関して

Project PlayのHPでは、”Design for Development:育成・発達を意識する”為に以下が提言されています(――は僕の解釈です)。

  • 人数/チームを減らし、チーム数を増やす――より多くの子供への機会提供
  • 試合に対する練習の比率を上げる――基本的な運動スキルの発達
  • 基本的な運動スキルの発達に時間を費やす――発達時期において試合よりも重要
  • 運動スキルに合わせた、個別フィードバックの提供――1人1人の発達速度を考慮
  • ”エリート”等の文字を、子供向けキャンプや商品から取り除く――身体が成長しきる前にエリートの称号を与えない・意識させない

最後に

人は1人1人違います。子供の場合は、そこに発育・成長速度の個人差が加わります。1人1人違うという当たり前の事をより強く意識する必要があるのに、スポーツの環境では忘れがちです。指導者・親が勝ち負けを過剰に意識すると、なおさらです。
早咲きの子供には挑戦できる環境を与え、遅咲きの子供にはゆっくり成長する機会を与え、子供1人1人がそれぞれのペースで自分のAthletic Potentialを開花し、一部の子は競技アスリートへと成長し、そうならなかった、なれなかった子供達も、生涯を通じてスポーツを楽しみ健康な人生を送る土台ができる。そんなユーススポーツ文化を創っていきたいものです。

(原文/情報源:http://youthreport.projectplay.us/the-8-plays/design-for-development)